【秋華賞】カムニャック 唯一の100点満点!古馬のような完成度
2025年10月14日 05:15 秋の3歳女王にふさわしい淑女のたたずまいだ。鈴木康弘元調教師(81)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第30回秋華賞(19日、京都)ではオークス馬カムニャックに唯一の100点満点を付けた。達眼が捉えたのは3歳夏を越しての気性の成長。淑女のたしなみとも言われる茶道の名言を引用しながら、その成長ぶりを解説する。
思考は姿勢につながり、姿勢は人生につながる…とは茶道家・北見雅子さんの名言。自分を磨くことでたたずまいが美しくなり、人生までも好転していくといいます。徹頭徹尾、姿勢にこだわる裏千家の教授らしい言葉です。この名言を馬に置き換えれば、気性は姿勢につながり、姿勢は競走生活につながる。ひと夏越したオークス馬カムニャックの風格あるたたずまいも今秋以降の活躍を約束しているようです。
オークス時の馬体診断では両前肢に体重を乗せて、前進気勢をみなぎらせていました。ところが、今回は四肢にバランス良く負重しています。3歳のひと夏を越して気性が成長したのでしょう。尾先を心地良さそうに後方へ流した立ち姿にはクラシックホースらしい貫禄さえ漂っている。少女から淑女の姿勢に変わりました。秋初戦のローズSでは4角で他馬と接触してバランスを崩しましたが、ひるむことなく差し切った。そんな前哨戦のレースぶりにも気性の成長が見て取れます。
気性が大人になれば自在性が出てきます。行きたがる面があったためオークスでは鞍上シュタルケが後方で折り合いに専念しましたが、今なら前めでもレースできるでしょう。舞台が京都内回りコースに替わるだけに自在性は大きな武器になります。
大きくて高くそびえるキ甲。首もしっかり抜けています。古馬のように完成度が高い。各部位のつながりにはゆとりがあります。半兄キープカルム(父ロードカナロア)は6月のしらさぎSで重賞初制覇を飾るなどマイル路線で活躍していますが、こちらは父がブラックタイドに替わって中長距離体形になっている。腹周りも太からず細からずの申し分ない仕上がり。肩の傾斜がきつい(立ち肩)ですが、上腕、前腕と膝の柔らかさでカバーしているので問題ありません。
裏千家の前家元で馬術選手としても知られた故・千玄室氏はこんな言葉を残しています。「乗馬の手綱さばきは、お茶のお点前(てまえ)の帛紗(ふくさ)さばきなどと実に似ています。やわらかく、すーっとさばく」(京都馬主協会会報誌16年版)。点前のように柔らかい手綱さばきにカムニャックは完璧に折り合って結果を出せるでしょう。成長した気性は姿勢につながり、姿勢は競走生活につながるものです。(NHK解説者)
◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の81歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。