【皐月賞】エフフォーリア100点 幸せ運ぶ造形美、重さ感じさせないバランス
2021年4月13日 05:30 幸せは美しい馬に降り注ぐ。鈴木康弘元調教師(76)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。「第81回皐月賞」(18日、中山)では3戦無敗のエフフォーリアに唯一満点をつけた。先週の桜花賞で上位4着までをズバリ指名した達眼が捉えたのは…。
美は幸福を約束すると語ったのはフランスの文豪スタンダールだったか。人は幸福感を得たくて美しさを追求するのかもしれません。ギリシャ語で強い幸福感(エフフォーリア)と命名された3戦3勝のクラシック候補も息をのむほど美しい。
510キロ超も体重がありながら重さを感じさせないバランスの良さ。前肢と後肢が見事に調和している。均整美に満ちた体つきです。肩や首、トモについた筋肉が浮き立って見えるほど弾力性に富んでいる。馬のフィットネス大会があれば、優勝候補と目される筋肉の造形美。その筋肉を包む皮膚はビロードのように薄く、肌を守る被毛は赤褐色の輝きを放っています。色彩美も備えている。
何よりも際立っているのが首差し。キ甲(首と背の間の膨らみ)がまだ抜けていないのに首差しは抜けている。普通は両方が一緒に抜けるものです。首差しが先行するのは珍しい。この奇麗に抜けた首差しが完歩の大きいダイナミックなフォームを生んでいるのです。後ろに目を移せば、奥行きのある背中と絶妙な角度でリンクした後肢がトモのパワーを余さず前肢にも伝えている。機能美にあふれたボディーです。
身心一如。体と共にたたずまいも美しい。整った顔を穏やかに正面に向け、大地をしっかりつかんでバランス良く立っています。力みは皆無。精神的によほど余裕がなければこれほど自然な立ち方はできません。
ただし、どんな名馬にも欠点はある。エフフォーリアの場合は右前の蹄とつなぎが立っているのが玉にきず。左前に比べて角度がきついため脚元に負担がかかりやすい。長い競走生活。慎重なケアを求められる時が来るかもしれないが、少なくとも今は何の問題もありません。
北欧スウェーデンの伝統工芸品で知られる木彫りの馬ダーラナホースは“幸せを運ぶ馬”と呼ばれています。ナイフと塗料でより美しく仕上げられた馬ほど大きな幸せを運んでくるそうです。エフフォーリアに備わっているのは均整美、造形美、色彩美、機能美…。美が幸福を約束するなら、この美しい馬体はどんな幸せを運んでくるのでしょうか。(NHK解説者)
◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の76歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。