【スプリンターズS】ビアンフェ100点 驚異の転生、去勢効果で激変 馬体に太い芯

2021年9月28日 05:30

<スプリンターズS>去勢効果で気性激変のビアンフェ

 去勢で最下位から反転攻勢だ。鈴木康弘元調教師(77)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。秋のG1シリーズ開幕戦「第55回スプリンターズS」(10月3日、中山)ではセン馬ビアンフェをダノンスマッシュ、レシステンシアと共に満点評価した。達眼がその立ち姿から読み取ったのは気性の変化。牡馬として出走した昨年の同レースでは集中力を欠いて最下位16着に失速したが、去勢効果で逃げ切る構えだ。

 競走馬は1年でここまで変わるのか。ビアンフェの姿には少々驚かされました。昨年のスプリンターズS時は頭を必要以上に低く下げ、後肢を前踏みした詰まり気味の立ち方。顔つきには緊張感がなく、散漫さだけが目につく立ち姿でした。ところが、今回はしっかり頭を起こし、後肢も正常な位置で力強く大地を踏みしめています。締まりがなかった顔つきには集中力が増している。カメラマンに向けた目、耳、鼻先は程よい緊張感を保ちながら一点に集中しています。それでいながらハミの取り方が穏やか。そのため引き手にも遊びがあります。

 まるで別の馬と気性が入れ替わったような…。人間でいえば、大林宣彦監督の映画「転校生」や大ヒットアニメ映画「君の名は。」でも描かれた、男女の人格が入れ替わるような変化です。精神面が成長してもここまでは変わらない。「転校生」みたいに少年と少女が一緒に階段を転げ落ちたとか、何か大きなきっかけがあるはず。調べてみると、昨年のスプリンターズS出走後に去勢手術を受けていました。牡馬からセン馬に変わっていたのです。

 去勢の効果には馬の個体差があります。精巣除去によるホルモン分泌の変化で筋肉が柔らかくなって疲労がたまらない、首が太くならずに機敏さを保てるなどの肉体的効果。気性が穏やかになって扱いやすい、牝馬と一緒に走らせても馬っけを出さないなどの精神的効果もあります。その半面、ホルモンバランスの変化に適応するまで半年程度、馬体がしぼむリスクもある。ビアンフェの去勢効果は昨年の馬体写真と比較すれば一目瞭然。気性が入れ替わったのかと思わせるほどの立ち姿の変化です。

 心身一如。心の充実に合わせて体にも変化が見られます。牡馬時代からサクラバクシンオー(母の父)譲りのボリュームあふれる馬体でしたが、その雄大な馬体に太い芯が入ったように映ります。トモの張りも増しています。

 「去勢効果を示す馬体」。3年前のフェブラリーS時にはセン馬になったノンコノユメ(優勝)にこんな診断をしました。ビアンフェが勝てば、それに続くセン馬のG1制覇。フランス語で「格好いい」の意味を持つ馬名通りの立ち姿が論より証拠の去勢効果です。(NHK解説者)

 ◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の77歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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