馬っ気は消し?惑わされないパドックの見方

2023年6月28日 10:30

パドックに詰めかけたファン(撮影・高橋茂夫)

 ▼日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社の田井秀一(30)が担当する。JRA全競走のパドックのデータを取り続ける馬体マニアが“パドックのすすめ”をしたためた。

 宝塚記念が終われば、いよいよ夏競馬本番。今週末から2歳新馬戦の施行数が一気に増える。古くから「格より調子」と言われてきた夏競馬。状態の見極めが重要になるが、特に予想ファクターが限られる新馬戦は、多くのファンがヒントを求めてパドックに足を運んでくる。

 パドック派記者としては新規客獲得の好機!?奥が深く面白い世界だからこそ、出はなをくじかれてほしくない。危惧されるのが「パドックの見方」などとインターネット検索してしまうパターン。データに基づかないえせ常識が平気でヒットしてしまう。

 たとえば、「馬っ気を出している馬は消し」の類い。JRAの用語辞典によると、馬っ気とは「牡馬の発情のこと」。股間を見れば一目瞭然の分かりやすさゆえに、パドック解説の入門編で取り上げられることが多いが、実際のデータはというと…。22年6月以降、新馬戦を走った2168頭の牡馬のうち、JRAレーシングビュアーで提供されているパドック映像内で馬っ気が確認できたのは19頭。その成績は【5・1・2・11】で、単勝回収率165%、複勝回収率135%。のちに皐月賞で1番人気(3着)に支持されるファントムシーフの新馬戦もそう。単勝3・2倍。馬っ気にだまされて取り逃した人も少なくないだろう。

 関東リーディング上位のある調教師にデータを伝えると、「平常心でレースを迎えてくれるに越したことはないけど…」と前置きした上で、「他馬に萎縮してしまうよりは我を出せる性格のほうが競走馬としての資質はあるのかも」。知らない人だらけの知らない場所に連れて行かれたら股間がしぼむ、気の弱い記者にはふに落ちる解説が返ってきた。データに裏付けされていない“常識”には惑わされないように注意を払っていただきたい。

 来年以降の夏競馬は暑熱対策のため、北海道シリーズ以外の各場で11時30分から15時ごろまで昼休みが設けられる見込み。10分置きにせわしなくレースが続く3場開催の現行スケジュールでは、パドックなんて見ている暇がないという方も多いだろうが、レースが9時台から18時台まで分散されれば、時間に余裕が生まれ、暇つぶしでパドックを見るしかなくなるはず。ぜひ、来夏の予行演習と思って今週末からパドック沼にハマってみては。パドックに関する疑問が生じた際は、スポニチ競馬WEBのツイッターにぶつけていただければ、喜々としてパドックオタクが誠心誠意、返信させていただきます。

 ◇田井 秀一(たい・しゅういち)1993年(平5)1月2日生まれ、大阪府出身の30歳。阪大法学部卒。道営で調教厩務員を務めた経験から予想の根拠の99%は馬体。BSイレブン競馬中継で解説。netkeiba「好調馬体チョイス」連載中。

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