【高松宮記念】トウシンマカオ95点 見違えるほど発達した後肢 強い闘争心うかがわせる顔

2024年3月19日 05:30

トウシンマカオ

 父譲りの筋力で「直飛」の短距離王が誕生するか。鈴木康弘元調教師(79)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第54回高松宮記念(24日、中京)では重賞2連勝中のトウシンマカオをトップ採点した。達眼が捉えたのは昨年の同レース(15着)時とは見違えるほど発達した後肢の筋肉。父ビッグアーサー(16年V)に続くタイトル獲りを可能にするのは、短距離向きとはいえない角度の浅い飛節(直飛)も補完する筋肉パワーだ。

 品評会で1位になるような欠点のない馬は走らないといいます。馬体は実に不思議なもので多少の欠点、弱点を抱えている方が走る。一流馬はその短所を補って余りある長所も備えているものです。たとえば、「曲飛」で知られるサンデーサイレンス。飛節が極端に深く曲がっていたため幼少時には買い手がつきませんでした。産駒にも曲飛が多かったが、競馬史を塗り替えるほど走った。

 曲飛は後肢の回転を速め一瞬の加速力を生み出す半面、後肢が伸び切らないので消耗しやすい。中長距離よりも短距離向きの飛節です。それでも、曲飛のサンデーサイレンス産駒は中長距離で活躍した。なぜか。疲労のたまりづらい柔軟な筋肉が飛節の短所を補完したからです。

 トウシンマカオの飛節は角度の浅い「直飛」。10人のホースマンがこの飛節を見れば10人とも中長距離向きと思うでしょう。曲飛とは逆で、地面を蹴った時に後肢が伸び切るためロスなく推進力を生み出せる半面、一瞬の加速力に欠ける。短距離の忙しい流れには不向きです。1200メートル戦ならルガルみたいな曲飛が望ましい。それでも、トウシンマカオは一流スプリンターになった。なぜか。飛節の短所を補完できる立派なトモの筋肉を備えているからです。昨年(15着)とは見違えるほど筋肉が発達しています。肩から前腕にかけての筋肉も盛り上がってきた。一流スプリンターらしいパワフルな体つきになっています。昨春の馬体診断では「1200メートルのG1ならもっとパワーが欲しい」と注文を付けましたが、1年たってそのオーダーにしっかり応えてくれました。

 そういえば、8年前の高松宮記念(優勝)で診断した父ビッグアーサーもトモと肩に鎧(よろい)のような筋肉をつけていた。立ち気味の肩をカバーできる分厚い筋肉を備えていました。

 鋭い目つきでカメラマンをにらみながら、耳もカメラマンの方に倒している。強い闘争心をうかがわせる顔つきまで父と同じです。短所を補って余りある長所を備えた父子鷹が高松宮記念4組目の父子制覇を遂げるかもしれません。 (NHK解説者)

 ▽飛節 後肢にある「く」の字型の関節。トモの筋力を推進力に換える重要な箇所。人間の「かかと」にあたる。

 ◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の79歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~2004年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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