【皐月賞】レガレイラ95点 76年ぶりの快挙に挑む紅一点は“細マッチョ”
2024年4月9日 05:30 76年ぶりの快挙をもたらす貴婦人の輝きだ。鈴木康弘元調教師(79)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第84回皐月賞(14日、中山)では紅一点のレガレイラをトップ採点した。達眼が捉えたのは一時代を築いた3冠牝馬ジェンティルドンナと共通する“細マッチョ”な肉体美。47年トキツカゼ、48年ヒデヒカリに続く牝馬3頭目の皐月賞制覇が現実味を帯びてきた。
一時代を築いた名牝の肉体美は2通りに大別できます。分厚い筋肉が隆起した岩のようにごつい馬体と、流麗なボディーラインに縁取られた柳のようにしなやかな馬体。近年の3冠牝馬を振り返れば、アーモンドアイやデアリングタクト、リバティアイランドは筋骨隆々の“ゴリマッチョ”、ジェンティルドンナは柳に雪折れなしのことわざを体現したような“細マッチョ”でした。紅一点、皐月賞に挑むレガレイラは明らかに後者の細マッチョです。
イタリア語で貴婦人(ジェンティルドンナ)と命名された12年前の3冠牝馬を想起させるアカ抜けた品のある馬体。中距離適性を示す長めの背と腹下、各部位のつながりに遊びのあるゆったりとした骨格のつくりもジェンティルドンナとダブって映ります。まだキ甲が抜けていないのに背中から腰、尻、臀(でん)部まで流れるような輪郭を描いています。筋肉は量より質。トモにはバネを仕込んだような弾力性と柔軟性に富んだ筋肉を備えている。トモのパワーを推進力に変換する飛節の角度はやや大きい。後肢の回転を速め、一瞬の加速力を生み出す折れの深い曲飛です。昨年末のホープフルSでは大外一気。牡馬勢に抵抗するスキも与えなかった末脚の原動力がトモの筋肉と飛節です。
毛ヅヤの輝きも牡馬勢を圧倒しています。花冷えした先週半ばの撮影でしたが、牝馬でも冬毛一本残っていない。貴婦人愛用の良く手入れされた毛皮のコートみたいな美しい被毛です。腹周りにはさほどボリュームがありませんが、適度に引き締まっています。休養明けでも仕上がりに狂いはありません。
顔つきはとても穏やか。引き手を持った正面のスタッフを静かに見つめています。史上最強牝馬と称されるアーモンドアイも優しく澄んだ目をしていましたが、こちらは優しすぎる。馬体がぶつかり合う激しいレースになった時、牡馬をはじき返して前に出るだけの心の強さを持っているのか。その点だけが問題です。名牝の肉体美にかかる期待は76年ぶりの牝馬による皐月賞制覇。その成否はハートに懸かっています。 (NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の79歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~2004年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。