【ヴィクトリアM】ナミュール100点!海外遠征を経て成長、くびれた股が円熟の証
2024年5月7日 05:30 くびれた股が円熟の証だ。鈴木康弘元調教師(80)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第19回ヴィクトリアマイル(12日、東京)では海外遠征帰りのナミュールに唯一満点をつけた。達眼が捉えたのは推進力を生み出す股の筋力アップ。香港、ドバイ遠征を経て進化を遂げた馬体が昨年のマイルCSに続くG1獲りを可能にする。
旅は人を成長させるといいますが、馬も成長させます。海外遠征帰りのナミュールを見た時、その体つきの変化に少々驚かされました。G1初優勝を飾った昨秋のマイルCS時に褒めた臀部(でんぶ)の筋肉がますます力強くなっている。昨秋には目立たなかった股の筋肉もボリュームアップしました。5歳になって股がにわかに成長したのは、昨年暮れから香港マイル(3着)、ドバイターフ(2着)と世界を股にかけて活躍したせいか。そんなオヤジギャグを年がいもなく(4月で傘寿を迎えました)飛ばしたくなるほどの変化です。
股の筋肉は臀筋とともに後肢パワーの起点となる重要部位。日本ではあまり意識されていませんが、英国では成長度、完成度のバロメーターの一つです。完成された馬を後ろから見ると、股の筋肉に力こぶのような“くびれ”ができているのが分かります。英国のトレーナーたちはその後ろ姿に「仕上がったな」、「完成してきたな」とジャッジを下すのです。熟年は背中で語るといいます。言葉で説明せずとも背中を見せれば生きざまが伝わるとの意味。競馬の世界に置き換えれば、熟した馬は股で語る。股のくびれは成長曲線なのです。
成長度、完成度のもう一つのバロメーターであるキ甲も既に完成。鹿毛の被毛は赤みを帯びています。体調も申し分ない。腹周りには少し余裕がありますが、栗東トレセンから東京競馬場への直前輸送でちょうど良くなるでしょう。余談ですが、この馬体写真を撮影したのはノーザンファームしがらき(滋賀県)からの帰厩日(2日)だったとか。完璧に仕上げたノーザンファームの調教技術や恐るべしです。
最後に立ち姿をチェックしてみると…。昨秋よりも大人びている。両前肢に少しだけ強めに負重をかけてやる気を見せながら、ゆったりとハミを受けています。成馬(成熟した馬)の落ち着き。旅は、馬の体も心も成長させます。 (NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の80歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。