【皐月賞】厩舎に“追い風”上村師を直撃! 期待のジーティーアダマンは「着実にステップアップ」
2025年4月16日 05:30 春のG1シリーズの水曜企画は「G1 追Q!探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけて本音に迫る。牡馬クラシック3冠初戦「第85回皐月賞」は大阪本社・新谷尚太(47)が担当。新馬、すみれSと連勝中のジーティーアダマンを起用する上村洋行師(51)を取り上げる。管理馬は先々週の大阪杯でベラジオオペラが史上初の連覇、先週の桜花賞は惜しくも首差2着に敗れたが昨年2歳女王アルマヴェローチェが休み明けで存在感を示した。今年13勝で調教師リーディング2位。厩舎全体に追い風が吹いているようだ。
≪出会い≫黒鹿毛の馬体を一目見て、ピンと来た。上村師がジーティーアダマンと出合ったのは23年夏の北海道セレクションセール。田畑利彦氏が1700万円(税抜き)で落札した。「線は細かったけどルーラーシップ産駒らしい馬体の良さを感じた」というのが師の第一印象。「若駒の時からおとなしかった。すらりとした体形で脚が長く、素軽い動きをするし、いい雰囲気をしていた」。産駒特有の気性の激しさは見せなかった。
昨秋の入厩後はじっくり乗り込みを重ね、年明け初日の1月5日に中京芝2000メートル新馬戦でデビュー。当時の体重が502キロで大型馬の分、背腰に緩さが残る段階にもかかわらず、期待通りの走りを見せた。ハナを切って道中、他馬と併せ馬の形になってもリズムを崩さず、落ち着いたレース運びで2馬身差V。いったん放牧を挟み、2戦目の前走すみれSも逃げ切り、賞金加算に成功した。
騎手時代、皐月賞は95年フライトスズカ(15着)、07年ブラックシャンツェ(14着)と2度騎乗。調教師としては23年ベラジオオペラで初めて、この舞台に立った。トライアルのスプリングSを制し、3番人気に支持された本番は10着とほろ苦い敗戦。それを糧にして力をつけ、大阪杯連覇の偉業を成し遂げた。いずれは厩舎の先輩に続く存在になってくれたら…とジーティーアダマンに期待を寄せる。
≪調教≫調教のやり方は厩舎、馬によって異なる。上村師はハードなトレーニングを積む手法。開業前は技術調教師として角居勝彦師(JRA通算762勝、21年に勇退)の下で研さんを積み、スタイルを継承した。角居厩舎の特徴は追い切り日以外も坂路で15―15(1F15秒程度)を切るくらいの速めのペースで駆け上がる。それを日々、繰り返すことで能力の底上げを図った。その教えを生かした馬づくりに取り組んでいる。上村師は「それぞれの個性を考えて調教パターンは変えているけど日頃の積み重ねが特に重要だと考えています」と強調する。
ジーティーアダマンは前走すみれSの1週前追いに上村師が騎乗し、CWコースでラスト1F10秒9(6F83秒7)と超抜の伸び。僚馬を瞬時に7馬身突き放し、非凡な脚力を見せた。この中間は心肺機能を高める狙いで坂路2本乗りを取り入れた。「さすがに(坂路2本乗りを)毎日はやらないけど普段からコースで長めに乗ることによって強化している。アダマンは攻めを強くしても、へこたれることなく着実にステップアップしていますよ」と成長を感じ取っている。
≪一体感≫上村厩舎は昨年JRA43勝(リーディング7位)でキャリアハイを更新。今年もベラジオオペラの大阪杯を含む13勝といいリズムで勝ち星を積み重ねている。先週は土曜の吾妻小富士Sでダンテバローズがオープン初勝利、桜花賞はアルマヴェローチェが2着に敗れたものの昨年2歳女王の力を示した。19年の開業後、年間の勝利数を伸ばし続けている。「たまたま」と謙遜するが「調教師になった以上は毎年、前年の結果を超えることが目標」と設定し、クリアしてきた。
厩舎はベテラン、中堅、若手と優秀なスタッフがそろう。意見を出し合い、切磋琢磨(せっさたくま)している雰囲気。常に笑顔が絶えることなく、全員が同じ方向を向いている。「毎年キャリアハイを更新できているのは馬主さんや牧場関係者ら皆さんのおかげ。限られた(馬房の)数でトップを目指すためにスタッフと最善の策を練っています」と思いを一つにしている。若葉S2着で優先出走権を確保したローランドバローズは1週前追いの後、左前挫石が判明して回避。無念の戦線離脱となった僚馬の分も…。全ての力を結集させ、大舞台に臨む。
◇上村 洋行(うえむら・ひろゆき)1973年(昭48)10月23日生まれ、滋賀県出身の51歳。92年に栗東・柳田次男厩舎所属で騎手デビュー。ルーキーイヤーに京王杯AH(トシグリーン)で重賞初制覇を飾るなど40勝を挙げ、JRA賞最多勝利新人騎手に輝く。17年目の08年スプリンターズS(スリープレスナイト)でG1初制覇。JRA通算7880戦570勝(重賞10勝)をマークし、14年に引退、調教助手に転身する。17年12月に調教師試験合格、19年3月に厩舎を開業した。JRA通算1322戦182勝、うち重賞8勝。
【取材後記】元騎手の上村師は全休明けの火曜から金曜まで毎日、調教に騎乗している。また、乗っていない管理馬に対しても神経を研ぎ澄ませて細かい部分までチェックし、なおかつスタッフと密にコンタクトを取る。「日頃から笑顔が絶えない厩舎になれば」という考えがあり、なれ合いになるのではなく、締めるところは締めて、その上でスタッフとうまく連携している。
成績を伸ばしている要因として馬、スタッフの頑張りはもちろん、師の戦略も見逃せない。展開、枠の並びに加えて当日の馬場状態を踏まえてジョッキーと打ち合わせ。「僕自身もコースを歩いて馬場状態を必ずチェックし、ジョッキーとレースを組み立てています」。ベラジオオペラで制した6日の大阪杯は上村師と横山和の見解がピタッと一致。思い描いた通りの展開で運んだという。「管理馬を出走させる以上、G1でも未勝利でもクラスに関係なく勝ちたい気持ちが強い。結果を残すことで厩舎の士気が上がるし、相乗効果が生まれる」と力を込めた。騎手、技術調教師を経て開業7年目、積み重ねた経験が全て今につながっている。(新谷 尚太)