【日本ダービー】元騎手・北沢助手が生み出すスターホース ドラゴンブーストで初栄冠に挑む
2025年5月29日 05:24 日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。ダービーウイークの今週は大阪本社・栗林幸太郎(42)が担当、競馬の祭典に挑む陣営にスポットを当てる。ドラゴンブーストの調教パートナーを務めるのは、元騎手の北沢伸也調教助手(53)だ。障害レースで名をはせた競馬人生を振り返りつつ、ダービーへの意気込みを聞いた。
障害界を極めた剛腕が新たなスターホースを生み出す。ダービー初出走となる藤野厩舎は、晴れ舞台にドラゴンブーストがスタンバイ。開業2年目の厩舎を支えるのは、元JRA騎手の北沢調教助手だ。温厚な人柄で周りからの人望も厚く、厩舎にとっては必要不可欠な存在。若きトレーナーの右腕として毎朝、競走馬の稽古に励んでいる。
90年に騎手デビュー、92年オークス(カガミセンカ13着)、95年天皇賞・秋(ポジー5着)で平地G1に騎乗。98年からは本格的に障害競走を主戦場に手腕を発揮し、14年にレッドキングダムで中山大障害を制し待望のJ・G1初制覇を飾った。「乗り替わりだったし、まさか勝てるとは思わなかった」と当時を振り返る。23年9月、調教中の落馬で頭を強打し目の神経がまひする重傷。「競馬だけで50回以上の落馬を経験して骨折もしているけど、今までそんなことはなかった。年齢的にも辞めろってことなのかな…」と百戦錬磨の鉄人が引き際を悟った。
昨年3月の騎手引退後は藤野厩舎の調教助手(攻め専)に転身。藤野師から意見を求められることも多く、豊富な知識と経験を生かし的確なアドバイスを送る。厩舎の出世頭となったドラゴンブーストの調教にも騎乗。「(厩舎に)入って来た時は目立つ感じではなかったけど、競馬を使うようになって大人になってきた。精神的にも肉体的にも成長している。俗に言う“いい馬”になって来ました」。ダービーの1週前と最終追いでも手綱を取った。「思った通りの質と量の調教ができているし悔いなしの仕上げです」と胸を張る。
3歳馬の頂点を決めるダービーはホースマンにとっては特別なもの。騎手時代には経験したことがない大一番に厩舎スタッフとして初めて挑む。「ダービーは出ようと思って出られるレースではない。もちろん、うれしいし光栄なこと。G1に出走することで馬主さんにも喜んでもらえるので、まずは無事に出られれば何より」と万全の態勢で送り出すことに注力する。常々「早く先生(藤野師)に重賞を一つ勝たせたい」と口にする北沢助手。ダービーが初栄冠なら、こんなにドラマチックなことはない。競馬一筋に歩んできた職人が究極の仕上げを施し、最高峰の舞台へ送り出す。
◇北沢 伸也(きたざわ・しんや)1971年(昭46)6月9日生まれ、千葉県市川市出身の53歳。幼少時代に父親とよく中山競馬場に行ったことがきっかけで、同競馬場の乗馬センターに通い、騎手を志した。90年デビュー。JRA通算3204戦282勝(うち障害160勝、障害重賞9勝)。J・G1勝利は14年中山大障害(レッドキングダム)。24年騎手引退後は、藤野厩舎で調教助手(攻め専)を務める。
◇栗林 幸太郎(くりばやし・こうたろう)1983年(昭58)1月10日生まれ、東京都出身の42歳。18歳でオーストラリアに渡り競馬学校に入学。競馬全般を学び、卒業後は美浦近郊の育成牧場へ。芸能事務所でマネジャーも経験。その後、ボートレースと競輪の専門紙を経て、2018年にスポニチ入社。中部地区で公営競技を担当し、24年7月に競馬班にコンバート。