【毎日王冠】アストラ 打倒G1馬へ奇策、追い込みに戦術変更
2017年10月4日 05:30 戦いは正をもって合い、奇をもって勝つという。孫子の唱えた有名な戦術論。戦いは正攻法を基本とすべきだが、状況の変化に応じて奇策を加えなければ勝てないとの教えである。全休日明けの3日、アストラエンブレムを管理する小島茂師が口にしたのも孫子の兵法。調教で自ら感触を確かめると、胸の内に温めていた戦術を明かした。
「今度は腹をくくって後ろから行ってもらう。開幕週の前残りになる馬場かもしれないが、馬群の後ろでじっくり構えてね。凱旋門賞(の流れ)みたいに脚をためるだけためていく」。アストラエンブレムは3戦連続で先行して2着。メイS、新潟記念はわずか首差、エプソムCも半馬身差で重賞初タイトルを逃した。「いつもラストでブレーキをかけているってジョッキー(M・デムーロ)が言うんだ。勝つために前に行っていたが、最後に苦しがってブレーキ。だとすれば道中抑えて、しまいの脚に懸けるしかない」
正攻法(先行)から奇策(追い込み)へ。戦術転換には初コンビ・戸崎の同意も得ている。9月28日に芝コースで行った3頭併せの1週前追い切り。戸崎は「乗りやすい」と褒める一方で課題も指摘した。「先行する2頭の間から抜け出すとき、一瞬だけ気を使う面があった」と小島茂師に報告した。「元々とても繊細な気性。馬群の中で気を使う面があるのかもしれない」と同師。「以前は馬群の後ろで脚をためて(直線で)はじけたし、後ろにいれれば最初の100メートルも行かないうちにハミが抜けて折り合える。操縦性の高さはうちの厩舎で屈指だから」と続けた。
08年の秋華賞馬ブラックエンブレムの3番子。母譲りの飛び抜けた身体能力を持つ半面、繊細な気性が出世にブレーキをかけてきた。「ストレスに弱くて、3歳春は胃潰瘍にかかったほど。当時はほとんど仕上げていない」と同師は言う。競走馬の80〜90%が胃潰瘍を患っているとの研究発表もあるが、同馬は胃腸薬を手放せないほど悩まされてきた。「普通に調教できるようになったのは前々走あたりから。本当に良くなるのは先だろうし、今回は相手の強さも分かっている。胸を借りるつもりでいく」。彼を知り己を知れば百戦して危うからず、という。競馬にも通じる孫子の兵法である。