「圧倒的1番人気」が勝つとは限らない

2020年6月5日 05:30

87年の安田記念でニッポーテイオー(右から4頭目)を大外から一気に抜いたフレッシュボイス(左端)

 【競馬人生劇場・平松さとし】1987年、昭和でいうと62年といった方が哀愁漂うだろうか。当時、安田記念は5月に行われており、この日も5月17日に開催された。この日の東京競馬場は雨の中、重馬場で施行された安田記念は第10レースに組まれていた。

 単勝1・7倍の圧倒的1番人気はニッポーテイオー。後にG1を3勝する名マイラーだが、この時点では重賞勝ちこそあれG1は未勝利。レースはスタート直後こそ2~3番手を追走したがすぐ“抑え切れない”とばかりにハナへ。4角から直線は悪い状態の内を嫌って馬場の真ん中に持ち出し粘り込みを図った。

 直線半ばではニッポーテイオー悲願のG1制覇!!と思えたが、ただ1頭、大外から物凄い脚で追い込む馬がいた。3番人気のフレッシュボイスだ。前年の皐月賞2着馬である同馬が、結果、差し切り勝ち。初のG1制覇を飾った。

 ニッポーテイオーに騎乗したのは“剛腕”の愛称で一時代を築いた郷原洋行騎手(当時)。後に話を伺うと次のように答えた。

 「東京のマイルで逃げ切るのは難しいと言われたけど、この時は下手に抑えたのがかえって良くなかった。もっと行ってしまった方が良かったと思いました」

 一方、勝ち馬に乗っていたのはこれもまたリーディングを獲るなどトップを極めた柴田政人騎手(当時)。後に調教師になった時、述懐してもらうと言った。

 「テン乗りだったけど末を生かすタイプなのは分かっていました。緩い馬場で最内1番枠だったので、スタートであえて下げ、ロスは承知で大外へ出したら凄い脚を使ってくれました」

 あれから33年。今年の安田記念はアーモンドアイが中心になりそうだ。手綱を取るC・ルメール騎手についてはこの年明けに他界した郷原氏もすでに調教師を引退した柴田氏も異口同音に「素晴らしい技術の持ち主」と評していた。しかし、ライバル勢も先週ダービー2勝目を挙げた福永祐一騎手ら多士済々。時代は流れたが名勝負は繰り返されることを期待したい。(フリーライター)

特集

2020年6月5日のニュース