【大阪杯】グランアレグリア100点 体はスプリンターでも穏やかな顔つき、距離克服できる
2021年3月30日 05:30 短距離界の女王は中距離でも輝くか。鈴木康弘元調教師(76)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。「第65回大阪杯」(4月4日、阪神)では3冠馬コントレイルと共に短距離G1・4勝のグランアレグリアにも満点をつけた。今G1最大の焦点となるのが女王にとって初距離となる2000メートル戦克服の可否。推理小説よりも難解な謎解きに達眼の名探偵が挑む。
競馬は最高の推理小説である――と言ったのは競馬評論家の故・大川慶次郎氏だったか。集めた状況証拠(予想の手がかり)を組み立てて事件の真相(レースの結末)に迫るのが競馬の推理。果たして短距離界のチャンピオンは中距離にも対応できるのか。グランアレグリアの写真にルーペを向けながら事件の謎を解明できない探偵の気分を味わってます。
マイルから未経験の2000メートルに延びる春初戦。距離克服の可否を馬体から解き明かしてほしい…との依頼が持ち込まれました。馬体写真から読み取れる解明の手がかりは2つ。「体形」と「表情」です。
まず「体形」。馬の目利き10人がグランアレグリアの体つきを見れば、おそらく10人ともスプリンターと思うでしょう。太い首、肩とトモには岩のような大きな筋肉。ダウンジャケットでも着込んだような厚みを増しています。一昨年の桜花賞時に476キロだった体重は昨年の安田記念で492キロ、スプリンターズS、マイルCSでは500キロを超えました。体重増は筋肉の増量分。加齢とともに筋肉マッチョなスプリンター体形が完成したのです。
スプリンターがマイルの古馬G1を強い競馬で連勝できたのはなぜか。コントロールが利く気性だからです。2つ目の手がかり「顔つき」が示すのは穏やかな気性。桜花賞時には耳を前方へ強く立てて前向きさをのぞかせていましたが、年を経るごとにおとなしくなってきた。馬の目利き10人が今回の顔つきだけを見れば、おそらく10人とも中距離型だと思うでしょう。ハミも着けず引き手を遊ばせながら涼しい顔で立っている。どこにも力みがない。藤沢和雄厩舎の教育の成果です。
スプリンター色が強まった体形と、中距離馬をイメージさせる顔つき。満点の仕上がりとはいえ、相反する手がかりから2000メートル克服の可否を見抜くのは難しい。浮沈の鍵はレース序盤。少しでもファイトすれば距離の壁にぶつかります。リラックスして走れれば壁は越えられる。力みひとつない穏やかな顔つきから後者の可能性が高いかもしれない。金田一耕助や明智小五郎にも解き明かせない結末。だから、競馬は最高の推理小説なのです。(NHK解説者)
◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の76歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。