【安田記念】ファインルージュ95点 心境変化示す“深化の瞳”、毛ヅヤにも輝き

2022年5月31日 05:30

ファインルージュ

 競走馬の目も口ほどに物を言う。鈴木康弘元調教師(78)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第72回安田記念(6月5日、東京)ではファインルージュ、ソングライン、シュネルマイスターの3頭をトップ採点した。中でも達眼が捉えたのはファインルージュの深く澄み渡った瞳。先週ダービーもズバリ的中した目からうろこの馬体解説をお届けする。

 「目は心の鏡だ」と言ったのは古代中国の思想家、孟子だったか。競走馬の体調を映す鏡が毛ヅヤだとすれば、目はその心を包み隠さず映し出してくれます。闘争心を映すギラギラした目、心の安らぎを表す涼しい目、激しい気性を投影する鋭い目…。馬体に接するときは最初に目を見る調教師が多い。現役時代の私もそうでした。目は口ほどに物を言うといいますが、言葉を持たない馬の目は人間の目より多弁だからです。

 でも、ファインルージュの神秘的な深い目からは言いたいことが読み取れない。その瞳に年がいもなく興奮させられました。ミリオンセラーとなった村上春樹氏の長編小説「1Q84」にこんな一節があります。「瞳がびっくりするほど深く澄み渡っている(中略)透き通っていながら、底が見えないくらい深い泉のようだ」。作中の女主人公「青豆」の瞳に言及したくだりです。昭和の時代から70年近く馬に接してきましたが、これほど深い目を見るのは初めて。過去のこの馬の写真を見直してみると…。

 前走・ヴィクトリアマイル時も昨年の牝馬3冠レースの時も目が輝いていましたが、泉のような深みはなかった。にわかに深化した瞳。そこに映し出されたのは「青豆」のような孤高の境地なのか。ともあれ、心境に著しい変化があったのは確かでしょう。

 体調を映す鏡が毛ヅヤなら、素敵な口紅(ファインルージュ)のような光沢を放つ毛ヅヤが映し出すのは身体の充実ぶり。アイメークしても目に深みをつくれないのと同様、ブラッシングしても被毛にこれほどの光沢は生み出せない。内面からあふれ出る輝きです。化粧水を使わなくても新緑のようにみずみずしい張りがある。中2週のローテでもダメージはありません。

 3歳時から完成度が高かった馬体。成長こそ感じられませんが、いつ見ても印象派の名画のように美しい。背中から腰にかけて流れるようなヘッドラインを描いています。バランスの整った前後肢にはしなやかな筋肉を付けている。「鏡よ、鏡よ、鏡さん、世界で一番美しいのは?」と問えば、白雪姫みたいなソダシと共に神秘的な深い目の牝馬を挙げるかもしれません。(NHK解説者)

 ◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の78歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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