【朝日杯FS】ダノンタッチダウン100点 翔ぶがごとき加速力 戦闘態勢整った!

2022年12月13日 05:30

ダノンタッチダウン

 翔ぶがごとき加速力を生み出す後肢だ。鈴木康弘元調教師(78)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第74回朝日杯FS(18日、阪神)ではダノンタッチダウンに唯一満点をつけた。達眼が捉えたのは羽を付けたように加速できるしなやかな筋肉だ。

 22年の世相を1字で表す「今年の漢字」は「戦」に決まりました。「戦」が最多投票を獲得したのは、米中枢同時テロが発生した01年以来。ロシア軍によるウクライナ侵攻の衝撃が表れています。23年の漢字は「和」になることを願いつつ、朝日杯FS有力候補の馬体を漢字1文字で表してみると…。

 馬体診断で唯一満点をつけたダノンタッチダウンは「翔」。羽を広げて空高く飛ぶ…の意味。ちょうど50年前に毎日新聞で連載をスタートした司馬遼太郎の歴史小説「翔ぶが如(ごと)く」で認知度が高まった文字です。この2歳馬が翔ぶが如く加速できるのは優れた体形のおかげです。滑らかに傾斜した肩が前肢の歩幅を広げ、奇麗に抜けた首差しが推進力を効率的に前方へ伝える。成長のバロメーターであるキ甲(首と背中の間の膨らみ)は未成熟なのに、これほど素晴らしい前駆を持っている2歳馬はめったにいません。

 推進力の源泉であるトモ(後肢)も凄い。尻から臀部(でんぶ)にかけて、柔軟で豊富な筋肉をつけている。羽を付けたように加速できるトモです。もっと際立つのが尾。側面からでも尾の付け根が見えるほど強い尾を持っています。強い体には強い尾が備わっているもの。羽の代わりに生やした強い尾は大器の相です。

 短距離で活躍したロードカナロアの産駒でも体形は中距離仕様。背中を含めて全体にゆとりのあるつくりをしています。同産駒のアーモンドアイのように2000メートル、2400メートルにも対応できる馬体。朝日杯FSではなく、2000メートルのホープフルSに回っても面白かったと思います。

 キ甲同様、気性もまだ幼い。両トモを後踏みしながら立っています。それでも、聡明(そうめい)な目と竹を割ったように立てた耳から賢さがうかがえる。「翔ぶが如く」の主人公、西郷隆盛に負けず劣らずアゴっぱりもいい。食欲旺盛なのでしょう。

 19年サリオス、20年グレナディアガーズ、21年ドウデュース。過去3年の朝日杯FS優勝馬に比べると、完成度では見劣ります。だが、素質では全く引けを取らない。たくさん食べて成長し、大きく羽ばたける逸材。2023年の「今年の漢字」が発表される来年の今頃、「翔」で表した素質馬は「王」と呼ばれる名馬になっているかもしれません。 (NHK解説者)

 ◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の78歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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