【安田記念】ジャックドール100点 マイルでも強く羽ばたく親子鷹
2023年5月30日 05:30 1マイルへ羽ばたく親子鷹、父子鷹だ。鈴木康弘元調教師(79)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。東京競馬春のG1シリーズを締めくくる「第73回安田記念」(6月4日、東京)ではジャックドール、セリフォスに満点を付けた。中でも達眼が捉えたのは2000メートル戦しか経験のないジャックドールのマイル適性。名マイラーで知られる父モーリス譲りの体形が距離克服の決め手だ。
鳶(とんび)の子は鷹にならずといいます。平凡な親から非凡な才能をもつ子は生まれないとの意味。非凡な親から非凡な子が生まれる例えもあります。球界でいえば原貢さん、原辰徳さん父子のニックネームにもなった「親子鷹」。勝海舟とその父・勝小吉の生き様を描いた子母沢寛の時代小説「父子鷹」を挙げる向きもあるでしょう。子は親を映す鏡。血は争えないもので姿形だけでなく気性、行動まで親に似ることがあるのです。
血は争えないのはサラブレッドも一緒。ジャックドールの姿形が映しているのは8年前の安田記念を優勝した父のモーリスです。肩とトモには岩のように隆起した分厚い筋肉。背と腹下が短く、詰まり気味のがっちりした骨格。父譲りのマイラー体形です。デビュー以来、一貫して2000メートル戦に出走。前走・大阪杯でG1初制覇を遂げましたが、その馬体に触れるたびに1マイルの走りを見てみたいと思っていました。
今回の立ち姿にはいつにも増してマイル適性が表れています。大阪杯に比べて臀部(でんぶ)の筋肉が力強く盛り上がってきた。古馬になって臀筋を発達させたモーリスの産駒にふさわしい後躯(こうく)の成長です。立ち姿も変わってきた。大阪杯時の力みが取れて、ハミを穏やかに受けています。それでいてカメラマンを見据える目つきは鋭い。瞳の奥に闘争心を宿しています。モーリスもこんな目をしていました。子は親を映す鏡。姿形だけでなく気性も似た親子です。
距離短縮のポイントはレース序盤。2000メートルのペースを体が覚えているのでマイルの流れに戸惑うかもしれません。それでも、向正面と直線が長いワンターンのマイル戦なら、挽回が利く。安田記念に続き秋の天皇賞も制した父とは順番が逆になりますが、マイルと2000メートル、2つの距離カテゴリーのG1タイトルを手にできる器です。
名は体を表すといいます。フランス語でドール(黄金)と名付けられた栗毛馬。その毛ヅヤはワックスをかけたようにピカピカだった大阪杯時よりさらに光沢を増し、黄金色に輝いています。父の蹄跡を追いかけて抜群の体調で羽ばたく鷹。ターフ界の親子鷹です。 (NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の79歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~2004年に日本調教師会会長。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。