大野騎手がフランスで諦めずに生かしたチャンス

2023年9月8日 05:00

大野拓弥

 【競馬人生劇場・平松さとし】
 8日、37回目の誕生日を迎えるのが大野拓弥騎手だ。

 中堅からベテランになろうかという彼から「海外へ行きたい」と相談を受けたのが一昨年。当初は遠征先として英国を希望していたが、コロナ禍でビザの取得が難しく、比較的容易に話の進むフランスへと方向転換。結果、昨年、凱旋門賞(G1)の行われるこの国への遠征が決行された。

 遠征にあたり、前もって彼には「調教で乗ることは可能だけど、レースでの騎乗は簡単ではない」旨を伝えた。それでも大野騎手は「長めに滞在して取り組みたいです」と語り、実際に約3カ月、かの地で過ごした。

 レースに乗れないのは覚悟の上で、それでも動いた彼に競馬の神様はすぐにほほ笑んでくれた。現地で開業する清水裕夫調教師を紹介し、会食をした。その直後のことだった。同調教師から連絡が入った。

 「競馬で依頼していた騎手が乗れなくなったので、代わりに大野騎手に乗ってもらいたいのですが?」

 聞くと、本来、騎乗するはずだった騎手はその日、2つの競馬場を掛け持ちで騎乗する予定でいた。発走時間的に可能であれば、ヨーロッパではよくある話だった。ところが、最初に乗る競馬場での発走予定時刻が変更。それに伴い、次の競馬場の発走時刻に間に合わなくなってしまった。そこでたまたま一緒に食事をした大野騎手に白羽の矢が立てられたというわけだ。

 すると、大野騎手はこのチャンスを生かした。フランスでの初騎乗となったこのレースを見事に優勝。これが縁で同じ清水厩舎のフォールインラヴという馬がディアヌ賞(G1、フランス版のオークスに該当)に使う際にもタッグを組ませてもらえることになった。そして、同国では凱旋門賞よりも人気があるというこの大舞台で5着に健闘してみせた。

 「たくさんの経験ができて、長期遠征して本当に良かったです」

 「難しい」と言われてもそこで諦めず、行動に移した彼は、3カ月に及ぶ遠征を締めくくった際、そう語った。37歳となる大野騎手の、さらなる活躍を期待したい。 (フリーライター)

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