【ヴィクトリアM】コンクシェル悲願G1獲りへ!本田助手が三度目の正直
2024年5月8日 05:28 春G1シリーズの水曜企画は「G1追Q探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけて本音に迫る。春の古馬女王決定戦「第19回ヴィクトリアマイル」は大阪本社・田村達人(31)が担当。中山牝馬Sで重賞初制覇を飾り、連勝中と勢いに乗るコンクシェルの担当者・本田康弘助手(56)を徹底取材した。牡牝の違いはあるが、かつてトウケイヘイローやキタサンブラック、メールドグラースといった実力馬を育てた清水久厩舎期待のキズナ産駒。3度目のチャレンジでG1獲りを期す。
ヴィクトリアマイルは06年に新設された。逃げ馬は07年2着アサヒライジング(9番人気)、09年3着ショウナンラノビア(7番人気)が好走。14年はヴィルシーナが11番人気で勝ち、続く15年は最低18番人気のミナレットが3着。人気薄の4頭が馬券に絡み、配当が跳ね上がった。ここ最近、3着以内こそないが20年トロワゼトワル(12番人気)と22年ローザノワール(18番人気)が4着と見せ場十分の走り。過去の傾向から人気以上の着順で踏ん張っているケースが目立つ。
コンクシェルは全5勝のうち重賞初制覇を飾った中山牝馬Sを含む逃げ切りで3勝。得意の逃げに持ち込んだ時は一度も負けていない。本田助手は「岩田(望)君が2走前の後にスタートは出るけど、二の脚がそこまで速くないと。前走はその点を踏まえて、序盤から押してハナを主張してくれた。2番手から控えても競馬はできるが単騎でリズム良く運ぶのが理想。そこは鞍上もよく分かっている」と全幅の信頼を置く。岩田望は今年、芝&ダートを合わせて逃げ馬で【5・7・3・13】と連対率42.9%、複勝率53.6%。逃げ馬の扱いに、たけている。
22年7月の小倉芝1800メートルで初陣Vを飾った。デビュー時の馬体重が444キロに対し、前走の中山牝馬Sがキャリア最高タイの474キロ。30キロ増えた。清水久厩舎のスタイルである強度の強いトレーニングをこなしながらの数字だから立派。「やはり一番の変化は体ですね。デビュー時から体に丸みがあり、いい馬だと思ったが放牧から帰ってくるたびに体がしっかりした。それに伴い、精神的にも落ち着きが出て、充実期に入った感じがする」。G1・7勝の名馬キタサンブラックを育て上げた清水久厩舎は軌道に乗れば勝ち続けるのが特徴だ。トウケイヘイローは13年鳴尾記念、函館記念、札幌記念と重賞を3連勝し、メールドグラースは19年に2勝クラスからG3・3勝を含む6連勝で豪G1コーフィールドCを勝った。
コンクシェルは4歳春を迎え、完成しつつある。走りたい気持ちが強過ぎて折り合い面に課題があった昨年とはまるで別馬。1、4日のCWコース追いは我慢が利いた上で、続けてラスト1F11秒3と自己ベストタイをマーク。「前走後は早くから、このレースを目標に調整を進めた。毛ヅヤが良く、前走から気配は一段と上向いている」と上積みを強調した。
キズナ時代の到来だ。今年の芝レースはキズナ産駒が45勝を挙げ、種牡馬別の勝ち星でトップ。JRA重賞でも先月14日の皐月賞を勝ったジャスティンミラノを含む最多7勝。先週の京都新聞杯はジューンテイクが8番人気で勝ち、高配当を提供した。ヴィクトリアマイルに限れば、22年ファインルージュが2着に入り、昨年はソングラインが4番人気でV。2年連続で連対している。コンクシェルは今年の登録馬15頭で唯一のキズナ産駒だからデータ面の後押しも十分ある。
昨年の桜花賞15着、秋華賞18着はG1の壁に阻まれたが「今となっては良化途上の中で大舞台を経験できたのは良かった」と前向きに捉える。今年2月の初音Sを制し、オープン入り。続く中山牝馬Sで重賞初制覇を飾った。条件クラスから勝ち星を積み重ね、三度目の正直を期してG1へ。「トレセンでのキャリアは長いけど、やはりG1は簡単に出走できる舞台ではないしパドックから全ての雰囲気が違う。甘くはないと思うが以前と比べて確実に成長しているので頑張ってほしい」。持ち前のスピードを生かした積極策で直線の長い府中を駆け抜ける。
◇本田 康弘(ほんだ・やすひろ)1968年(昭43)1月20日生まれ、京都府出身の56歳。父がJRAの調教助手だったこともあり、競馬とは身近な環境で育った。古巣・安田伊佐夫厩舎では98年鳴尾記念(当時G2)覇者で天皇賞・秋3着サンライズフラッグを担当。清水久厩舎は09年の開業時から所属している。
【取材後記】コンクシェルを担当する本田助手は父と叔父がJRAの調教助手だったトレ子(トレセン育ち)。黙々と馬づくりに取り組んでいる印象が強い。そんな寡黙な人が感情を前面に出したのが逃げ切りを決めた前走の中山牝馬S。ゴール前、外から急接近したククナを半馬身差で振り切り、重賞初Vのゴールに飛び込んだ。「最後差されるかな、と思ったが根性で踏ん張ってくれた。興奮して気付いたら隣の(厩舎)仲間と握手していて、格別のうれしさでしたね」と笑みを浮かべる。
本田助手が担当馬で重賞を勝ったのは26年ぶり2度目。前回は安田伊佐夫厩舎(09年春に解散)に所属していた時で98年鳴尾記念までさかのぼる。7番人気の伏兵サンライズフラッグを送り出した。道中12番手から上がり3F最速の脚で単勝1.3倍と断然1番人気だった名牝エアグルーヴを差し切った。「昼ごろから激しい雨が降り、レースは不良馬場。あのエアグルーヴに勝ったんだから大したもの。もう昔の話だけど、よく覚えている」。G1こそ手が届かなかったがサイレンススズカ(競走中止)が大逃げを打ち、オフサイドトラップが勝った同年天皇賞・秋では3着に入った。限られた人しか見ることができないG1勝利の景色。ベテランがこれまで培った経験全てを大舞台にぶつける。 (田村 達人)