常識にとらわれないモズアスコットの砂連勝劇
2025年1月31日 05:05 【競馬人生劇場・平松さとし】
“常識”は広辞苑で次のように記されている。
「普通、一般人が持ち、また持っているべき知識。専門的知識でない一般的知識とともに理解力・判断力・思慮分別などを含む」
これは多少の超訳、すなわち過去の事象を元に未来を予測するモデルとして、スポーツの世界でよく用いられる。野球に例えれば「安定して構えなければ良い打撃はできない」というのもその世界の常識だ。
しかし、時にそれは可能性を狭める足かせになりかねない。古くは王貞治選手。一本足打法で世界の本塁打王に輝いた。また先日、日米で殿堂入りを果たしたイチロー選手も振り子打法でヒットを量産した。
これは競馬の世界にも通じる。今週末、根岸S(G3)が行われるが、5年前にこのレースを勝ち、続くフェブラリーS(G1)も制したモズアスコットも、常識にとらわれなかったからこその連勝劇だった。同馬は根岸Sが初めてのダート戦。18年には安田記念(G1)を制しており、芝のG1馬をダートの重賞に挑ませるのは、常識的ではなかった。そもそも安田記念も、前週のオープン特別で2着に敗れていながら連闘で挑んでの制覇だった。「一本足打法や振り子打法はダメ」と考えていたら安田記念もフェブラリーSも勝っていなかっただろう。
モズアスコットを管理していたのは矢作芳人調教師。常識を打ち破り世界中で足跡を残しているのは、皆さんご存じの通りだろう。来月から続く中東ラウンドにも複数の管理馬を遠征させる予定でいるが、その中の1頭にはフォーエバーヤングがいる。同馬は昨年の米G1ケンタッキーダービーとブリーダーズCクラシックで共に3着。ダート競馬では世界最高峰の米国で、頂点まで迫ってみせた。
ちなみに同馬の父は矢作師の下、芝のG1ドバイターフを勝ったリアルスティール。その産駒を芝にこだわらず一貫してダートに走らせ実績を残しているわけだが、伯楽は言う。
「芝路線を全く考えていないわけでもありません」
常識の殻を破る快進撃がまだまだ続くことを願おう。 (フリーライター)