障害界の安全確保なくして明るい未来なし

2025年8月13日 05:05

ネックガードプロテクターを着用する石神深

 日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社の鈴木悠貴(34)が担当する。テーマは障害ジョッキーのケガ防止装具。昨夏からジョッキーが着用している“ネックガードプロテクター”を取り上げる。

 人馬一体の飛越でファンを魅了する障害戦。ただ、その飛越がケガのリスクを伴っているのもまた事実だ。高く飛ぶ分、落馬時の衝撃は相当。実際、何人もの障害ジョッキーが落馬による負傷で引退を余儀なくされている。

 騎手生命、ひいては命に大きく関わるのは頸椎(けいつい)の損傷。その頸椎を守るべく、障害ジョッキーが昨夏からレース時に着用しているのが“ネックガードプロテクター”。クッション性の高いスポンジのような素材で作られた装具で、ボートレーサーも使用しているものだという。その効果について石神深は「着けているのと着けていないのでは首へのダメージが全然違った。落ちた日は痛みを感じなくても次の日に痛くなっていることが僕らは多々あるのだが、そういうこともなかったです」と驚いている。

 着用から約1年。各ジョッキーの意見を参考に、現在もネックガードプロテクターの改良を重ねている。「レース後、みんなで検量室に集まって話し合いをしている。僕は“少し前が見づらい”ということを言った。ネックガードプロテクターの中に保冷剤を入れられるようになっているんだけど、その保冷剤がレースまでに溶けてしまうみたいで…。そういう部分においてもまだ変えられる余地があるかな」と石神深。近く、新たな試作品がジョッキーたちにお披露目されるという。

 ネックガードプロテクター着用はケガ防止の第一歩に過ぎない。今後は乗馬で既に使用されている“エアバッグ付き保護ベスト”の導入を目指す。返し馬で落馬した際はどうするのか、費用は誰が負担するのか。まだまだ課題が多いことは確か。それでも「それがあればだいぶ変わってくると思う。徐々にステップアップしていかないといけない」と石神深は早期導入を望んでいる。

 ケガ防止策は命だけではなく、今後の障害界を守ることにもつながると熱弁する。「ケガのリスクが減れば(小牧)加矢太みたいに外部からジョッキーになってくれる人がいるかもしれないし、若手ジョッキーが障害にチャレンジしてくれるかもしれない。関係者やファンが“危ないな”と思わないようになれば、応援してくれる人が増えるかもしれない」。安全確保なくして明るい未来なし。JRAの早急な判断と適切な施策に期待したい。

 ◇鈴木 悠貴(すずき・ゆうき)1991年(平3)4月17日生まれ、埼玉県出身の34歳。千葉大法経学部を卒業後、14年にスポニチ入社。23年1月から競馬担当。

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