競馬界でも深刻な人手不足 外部からの加入拡大に期待
2026年7月29日 05:22 日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は大阪本社の田井秀一(33)が担当。競馬界の人手不足を取り上げるにあたり、導入として「入り口」を調査。調教助手らトレセン関係者50人にこの世界を目指したきっかけを聞いた(肩書などは取材当時)。
日本で人手不足が叫ばれていない職種の方が珍しいかもしれないが、競馬界も切迫した状況。要である馬産、育成の現場はいまや外国人労働者なくして成り立たないし、地方競馬の多くもそう。携わる端くれとして人ごとではない。
競馬界に入ったきっかけのアンケート。割合が最も多かったのは「親が関係者だったから」。世間では「父が働く会社に自分も…」なんて動機はあまり聞かないので、やはり特殊な世界だ。ママコチャを担当する斉藤勲助手は父の正敏さんもダイワエルシエーロ、ダイワスカーレットなどを手がけた腕利き。一度は競馬関係以外に就職したが、「父の背中を見て」最終的にはこの世界を選んだ。ここは将来揺るがない因子。引き続き、厩務員の皆さんには馬と共に生きる格好いい背中で、人材確保の一役を担ってもらいたい。
次点は「動物が好きだから」。馬だけ特別に好きだったというよりは動物好きが高じて…のパターンも少なくない。クロワデュノールの間宮辰徳助手は幼少期に訪れた乗馬クラブがきっかけ。パンジャタワーの五十嵐公司助手は学生時代に馬との接点を得たという。動物好きをターゲットに、気軽に馬と触れ合える機会を創出すれば、外部からの“マーケット”拡大がかないそうだ。
「憧れていた人や馬」の調査では武豊騎手が断トツ。パラディレーヌの仁岸隆之助手は「武豊さんでしょ」と即答。平成生まれの奥村竜平助手(アルトラムスを担当)も「やはり武豊さんは凄いと思います」と目を輝かせる。20代から40代まで、後進を競馬の世界に引きつけるレジェンドはさすが。次代のスターが待ち遠しい。馬部門では3冠馬の名前が多く挙がった。特に30代はディープインパクトが大多数。高橋一厩舎攻め専の村上俊樹助手もその一人で、「騎手を目指して」現在に至る。3冠挑戦のレースは独特な雰囲気。直近のコントレイルとデアリングタクトの偉業がコロナ禍と重なって残念でならない。今秋、ロブチェンの挑戦を一人でも多くの方に現地で見届けてもらいたい。
友道厩舎の大江祐輔助手は門戸拡大に積極的に取り組んできた。自身は実家が生産牧場で、自然とこの世界を志した。生き物を扱う毎日は楽しさと難しさの両面を併せ持つが、「生きがいをもらっている業界に恩返ししたい」と多方面に働きかけている。競馬の魅力の一つに「現地、映像、ラジオを通して、同時にこれだけ多くの人が熱狂できるものはなかなかない」とライブ感を挙げる。
ただし、コロナ禍以降はG1当日の競馬場の入場人員はコントロールされており、近3年の有馬記念は入場人員が5万人台、ダービーも8万人前後で推移している。チケットをネットで事前購入(抽選)したファンに限れば、子供が競馬と交わる機会は間違いなく失われる。前出のディープが優勝した05年ダービーは14万人超が入った。当時ダンスインザモア(14着)を担当していた三尾一之厩務員が「地下馬道で自分が震えているのか、地面が揺れているのか分からなくなった」と振り返る熱量は今の競馬場にはない。自分の声さえ聞こえない、あの熱狂にじかに触れ、子供たちに“競馬”を感じてもらいたいが、時勢が許さないのだろうか。