令和に輝く名種牡馬は!?キンカメ後継カナロア 繁殖相手の良さ受け入れる大らかな“愛妻家”
2019年9月18日 05:30 後継種牡馬レースを制す決め手は花嫁の引き立て役になれる寛容さだ。7年連続リーディングサイヤーに君臨したディープインパクトの急死で風雲急を告げる種牡馬界再編。G1馬体診断でおなじみの鈴木康弘元調教師(75)が次代を担う種馬の可能性を、その立ち姿から大胆に占うと…。国内最大手、社台スタリオンステーション(北海道・安平町)にけい養される種牡馬の中から達眼が選んだのはロードカナロアとキズナだ。
社台グループの礎を築いた吉田善哉オーナー(故人)に誘われて英国、フランスのスタリオン(種馬場)を巡ったのは29年前のこと。「鈴木さん、気になる種馬はいましたか?」。帰国時、一緒に見て回った欧州種牡馬に対する感想を求められました。「どれも普通でしたね」と答えると、「そうだよね、普通だよね」と笑いながら相づちを打ち、ひと呼吸置いてこう打ち明けてくれました。「実はサンデーサイレンス(SS)を米国から日本に入れようと思っているんです」。当時は善哉さんが導入した種牡馬ノーザンテーストの全盛時代。繁殖牝馬にもこの系統(ノーザンダンサー系)が増えていました。善哉さんは近親交配を避けるためアウトブリード(異系交配)種牡馬を探しており、半ばSSに決めかけた時に欧州へ私を誘ったのでしょう。欧州のスタリオンを巡った結果、SSを超える種牡馬はいないと結論を出して、購入を打ち明けてくれたのです。
今の種牡馬界も当時と同様に、いや、それ以上にアウトブリードが求められています。傍流のアウトブリードだったSSの血統が大成功して主流に変わり、優れた繁殖牝馬の多くがSS系になった。ディープインパクトの次代を担うのは、SS系の繁殖牝馬と交配できる非SS系。ミスタープロスペクター系で知られるキングカメハメハの2世が時代の寵児(ちょうじ)になっていくのではないでしょうか。
なかでもロードカナロアは異彩を放っています。どこまでもゆとりにあふれた馬体。父譲りの厚みに加えて繊細さも備えた筋肉。名スプリンターだったとは思えないほど穏やかな目つきでのんびりと立っています。心身共に余裕に満ちた立ち姿。この余裕こそが自分を出し過ぎず、交配相手(繁殖牝馬)の特長を引き出すことにつながっている。立ち姿は気性や体を忠実に映し出す鏡。図らずも血統の特徴まで体現しているのです。
キズナにも言えますが、自己主張し過ぎないことが名種牡馬の条件。ロードカナロアの立ち姿に現れているようにおおらかな姿勢で繁殖相手の良さを受け入れるから、相手に応じたさまざまなタイプの産駒を出せる。アーモンドアイ、サートゥルナーリアなど中距離馬からステルヴィオのようなマイラー、ダノンスマッシュ、ファンタジストなどスプリンターまで…。
今の時代は2歳時から活躍できる仕上がり早の産駒を輩出することも重要な条件。ロードカナロアの初年度産駒32頭がデビューした17年の2歳戦を勝ち上がり、ファーストシーズンリーディングサイヤーを獲得した。「鈴木さん、気になる種馬はいましたか?」。アウトブリードを探した吉田善哉オーナーから今、同じ質問をされれば、ロードカナロアの名を真っ先に挙げます。
▼父キングカメハメハ 母レディブラッサム(母の父ストームキャット)11歳 19年種付け料1500万円、種付け頭数245頭
◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の75歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。今春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。