【菊花賞】コントレイル“自在天王”100点 父ディープほうふつ進化を主張するトモ
2020年10月20日 05:30 幻の最強駒に進化した。鈴木康弘元調教師(76)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第81回菊花賞(25日、京都)では、史上3頭目の無敗3冠が懸かるコントレイルに唯一満点をつけた。達眼が捉えたのは3歳秋を迎えての筋肉の進化。1冠目の皐月賞ではその立ち姿を将棋の大駒「竜」に、2冠目のダービーでは「王将」になぞらえたが、3冠に挑む姿は王将の成り駒「自在天王」だ。
太古の将棋には王将の成り駒があったそうです。平安時代後期に創案された「摩訶大(まかだい)将棋」に登場した「自在天王」と呼ばれる王の成り駒。駒の配置されていないあらゆる場所に自在に飛べる全知全能の駒でした。威力が強すぎたため後の本将棋に用いられることもなく、姿を消してしまいます。コントレイルは3歳秋を迎え、ついにこの幻の最強駒「自在天王」の域に達しました。
「王将」になぞらえたダービー時からさらに進化を遂げた究極の馬体。筋肉の量はさほど増えていませんが、その質がさらに上がった。繊細で柔軟で弾力性に満ちた筋肉。特にトモに付いた筋肉の繊維は素晴らしい。筋繊維の一本一本が見る者に「俺はひと皮むけたぞ」と訴えかけてくるようです。進化を主張するようなトモに触れたのは父ディープインパクト以来です。
全体に余裕があるつくりも父譲り。その余裕とは成長を受け入れる余白と言ってもいい。2歳時からこの途方もなく大きな器を持った青鹿毛を将棋の駒になぞらえてきました。G1初優勝となった昨年のホープフルS時は「飛車」。しなやかな体つきから縦横無尽の広い利きを持つ大駒に例えたのです。皐月賞時は飛車の成り駒「竜」。未発達だったキ甲(首と背の間の膨らみ)と首差しが抜け、肩とトモに筋肉の厚みが加わった。著しい進化を遂げたからです。ダービー時は「王将」。鋭い表情を浮かべながらハミを穏やかに受けて悠然とたたずむ。王者の風格をその立ち姿に漂わせたからです。3歳のひと夏を越して迎えた3冠最終戦。王将は成り駒に進化しました。
未経験の3000メートルも問題ないでしょう。中距離体形でも距離に融通が利くゆとりのある骨格。疲労が蓄積しづらい柔軟な筋肉。絶対的なスピードをラストまで温存するように教え込まれ、指示通りに折り合える学習能力。ステイヤーでなくても3000メートルはこなせます。骨格、筋肉、学習能力の3要素を十全に満たしたディープインパクトのように…。その父以来15年ぶりの無敗3冠も通過点にする「自在天王」です。(NHK解説者)
◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の76歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。