【菊花賞】名馬は「賢い」父に重ねる池江助手
2020年10月23日 05:30 父ディープインパクトの調教パートナーだった池江助手。無敗3冠が懸かった緊張感は当事者でない今でも身震いするほどのもの。
「負けてはいけないというプレッシャーがありました」。その重圧が肌で分かる。だからこそディープの背中を知り、ともにプレッシャーをはねのけた池江助手はコントレイルに熱い視線を送る。父と子を二重映しにして。
重圧はダービー直後から襲ってくる。ディープインパクトは無傷5連勝でダービー制覇後、札幌競馬場に入厩。夏場もトレーニングに励んだ。「菊花賞に向けて、折り合いの宿題が課せられました」。3000メートルを克服するため。ディープは毎日毎日、馬の後ろで我慢する調整が続けられた。
「前に出ないように乗り手の意思で動かせるように考えて調整を続けた。少しずつましになって、形になっていきましたね」
一つ課題をクリアしたが、別の問題が持ち上がる。神戸新聞杯の最終追いで思わぬ暗雲が垂れ込めた。「我慢を覚えさせたことが裏目に出て、ディープ自身が馬を追い抜かなくていいと思ってしまった。この頃から調教で全く動かなくなった」。春には調教でも圧倒的な走り。それが影を潜めた。陣営が「最も緊張した」と言う半信半疑で出走した神戸新聞杯が、2着に2馬身半差をつける快勝。「あの勝利は本当にうれしかった。ディープは競馬と調教をちゃんと分かっていた。僕らが思っている以上に賢いということを再認識した」と池江助手。
これは矢作師が在厩調整について心配したらコントレイルは全く問題なくクリアして「馬を信頼してあげられなかった自分たちが情けないと思った」と言ったコメントに通じるものがある。名馬は人の思惑を超えていく。池江助手は「たくさん馬にまたがってきたけど、走る馬は本当に賢い」と実感する。
外から見て、コントレイルはどう映るか。「競馬センスがある。見ていて安心できる。初めての3000メートルでもあっさり勝って不思議はないですね。何より、今後もかなり大きな仕事をできる馬だと思います」。池江助手が期待するのは、ディープ産駒の最高傑作だ。
◆池江 敏行(いけえ・としゆき)1962年(昭37)6月18日生まれ、大分県出身の58歳。15歳で浅見国一厩舎の見習い騎手となる。17歳で池江泰郎厩舎へ。開業当初から厩舎を支えた。11年2月末の池江泰郎師定年による解散後に高野厩舎へ移り、現在も所属。