【ジャパンC】アーモンドアイ・牛丸装蹄師、試作を重ね生まれたゴム入りの蹄鉄
2020年11月28日 05:30 名馬は騎手ばかりか、調教師や厩舎スタッフも育てるという。その伝にならえば、希代の名牝が育てたのは…。
カン、カン、カチン、カチン…。金曜朝の調教が終わると、甲高い金属音が国枝厩舎から聞こえてくる。アルミ合金の蹄鉄をハンマーで叩く装蹄作業。「これで最後だと思うと、寂しさとプレッシャーから解放された安どの半分半分ですかね」。“親方”と呼ばれる開業装蹄師の牛丸広伸氏はアーモンドアイに現役最後の蹄鉄を打ち終えると寂しそうに笑った。
2歳のデビュー前から30回前後に及んだ蹄鉄の打ち替え。「2歳時は右トモが弱かったので削蹄(蹄の角度を修正)で補っていましたが、その後、左右のバランスが良くなったんです」と振り返る。身体能力の高さは蹄鉄にも表れているという。「奇麗に真っすぐ走って地面との摩擦が少ないから四肢のどの蹄鉄もあまり減りません」
飛び抜けた身体能力は深刻な蹄のトラブルも引き起こした。「このままじゃ蹄がもたない。改善策はないか」。国枝師の依頼で連日、厩舎に通ったのは秋華賞前。3歳秋になってパワーアップした後肢が前肢にぶつかるまで深く踏み込むため、前肢の蹄は保護材を着けても出血するほど傷んでいた。どんな蹄鉄が前肢の蹄をもたせるのか。牛丸親方は夜も眠れずに試作を重ねた。3冠ゴールを駆け抜けた前肢の蹄には衝撃を吸収するゴム素材を用いた牛丸オリジナルが着いていた。
今秋着用しているのはほぼノーマルに近い蹄鉄。追突しづらい後肢の使い方ができるようになったからだ。装蹄の変化が名牝の成長を雄弁に物語る。「あんな状況(蹄のトラブル)も乗り越えられる馬がいるんだなと、勉強させられました。ゴム入りの蹄鉄は彼女に作らされたようなもの。僕も育ててもらったのかもしれません」と語る牛丸親方。希代の名牝は敏腕装蹄師も育てた。
◆牛丸 広伸(うしまる・ひろのぶ)1974年(昭49)12月31日生まれ、千葉県出身の45歳。土浦日大高卒後、日本装蹄師会(現日本装削蹄協会)装蹄教育センターで装蹄師の資格を取得。94年に父・森伸氏の装蹄所に勤務し、09年に独立して開業。国枝厩舎など約15厩舎の管理馬を担当している。