【宝塚記念】クロノジェネシス100点!5歳進化の到達点、大人になり光沢放つ
2021年6月22日 05:30 梅雨の晴れ間に輝いたのは銀色の名牝だ。鈴木康弘元調教師(77)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。「第62回宝塚記念」(27日、阪神)ではクロノジェネシスをカレンブーケドールと共に満点評価した。達眼が銀色に光るジェネシスの被毛から読み取ったのは進化の到達点。牝馬初の春秋グランプリ3連覇が見えた。
大人になると、銀色の光沢を放つシルバーフォックス。その銀ギツネの成長物語を描いたのは英国出身の作家で、画家としても知られるアーネスト・トンプソン・シートンです。美しく銀色に輝く毛皮を狙う猟師との生死を懸けた勝負。猟犬にも負けない勇気と知恵とたぐいまれな走力。宝塚記念の馬体写真をチェックしているうちに、少年時代、夢中でページをめくった「シートン動物記(銀ギツネの伝記)」の描写がまぶたに浮かびました。思い出させてくれたのは芦毛馬クロノジェネシスが放つ被毛の輝きです。
芦毛は生まれたときは灰色か黒が多く、年を重ねるにつれてだんだんと白くなっていくのが特徴。ところが、クロノジェネシスは灰色から白化するのではなく、銀色に変わった。調教師時代から芦毛を星の数ほど見てきましたが、ここまで銀色に光る被毛は珍しい。昨年まで愛用していたグレーのダウンコートを脱ぎ捨て、シルバーの新作をまとった貴婦人の輝き。体調の良さだけでは説明できない毛ヅヤの変化です。
私は銀色の輝きを進化の到達点と捉えたい。3歳春当時からひと目で名牝の相を感じさせる馬体でした。筋肉の柔軟性と弾力性、各部位が絶妙な角度でリンクされた機能性、腱がしっかり浮き出た丈夫な脚元。か細いトモと腹袋に厚みが増せば超一流馬になると、当時の馬体診断でも言及しました。3歳夏を境に銀ギツネの成長物語を地で行くような進化を遂げていきます。トモの張りが増し、腹もふっくら見せるようになった。桜花賞、オークス(ともに3着)時には430キロ台前半だった馬体重がG1初制覇の秋華賞では452キロ、G1・2勝目を挙げた昨年の宝塚記念では464キロ、G1・3勝目の有馬記念が474キロ。40キロ余の体重増はそのままトモと腹袋の成長を示しています。
そして迎えたグランプリ3連覇の懸かる大一番。ドバイ遠征のダメージはどこにもありません。筋肉量がマックスに達した昨年の有馬記念時と変わらない張りに満ちた体つき。唯一違うのは…。完熟を伝える被毛の輝き。大人になると、クロノジェネシスも銀色の光沢を放ちます。(NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の77歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。