【皐月賞】イクイノックス95点 父キタサン譲りの七光ボディー
2022年4月12日 05:30 中山でキタサン2世祭りだ!鈴木康弘元調教師(77)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第82回皐月賞(17日、中山)では昨年の朝日杯FS優勝ドウデュースと共にイクイノックスをトップ評価した。達眼が捉えたのはG17勝の父キタサンブラック譲りの柔軟な筋肉とゆとりある骨格。長期休養明けの不安を一蹴する仕上がりで父が逃したタイトルへ前進した。
子は親を映す鏡です。親に似ぬ子なし、この親にしてこの子あり、血は争えない…ともいいますが、人間以上に血がものをいうのがサラブレッドです。例えば、ディープインパクトの子は父のしなやかで軽い走りを、キングカメハメハやダイワメジャーの産駒は父のマッチョな筋肉を受け継いでいるケースが多い。ステイゴールドやその後継種牡馬オルフェーヴル、ゴールドシップの子供たちは父のこわもてを引き継いだ。顔は心の鏡…のことわざ通り、気の強い産駒ばかりです。
皐月賞の有力候補イクイノックスが鏡のように映し出したのは…。そのスラリと長い脚、スーッと抜けた首差し、伸びやかな胴。5年前に引退した父キタサンブラックの姿が懐かしく思い出されました。皐月賞(3着)からラストランを飾った5歳の有馬記念までその馬体をチェックしましたが、血は争えないものです。キリン体形(キリンのような長い脚と首)だった父ほどではないにせよ、共通点は多い。
父親から譲り受けた長所を挙げれば、疲労が蓄積しづらい柔軟な筋肉、長距離にも対応できる余裕のある骨格のつくり。皐月賞当時の父と共通する課題を挙げれば、少し薄手の腹袋、発展途上にあるキ甲(首と背中の間の膨らみ)。父は古馬になってから腹周りにパワーを付け、キ甲も盛り上がりました。息子にも成長の余地が残っています。
その一方、キタサンブラックより優れている点もある。肩甲骨のなだらかな傾斜。つまり肩の寝方が素晴らしい。前肢は肩甲骨の角度まで前に伸びます。斜めに寝た肩甲骨が父よりも大きなストライドを可能にしているのです。そのあたりは母系の特徴が出ているのかもしれません。父は長すぎる脚を畳むのに時間がかかった。そのため一瞬の脚を使えませんでした。イクイノックスはそこまで極端に長くないし、ストライドも伸びる。父親よりも切れるでしょう。
5カ月の休養明けで臨む大一番。太め感はありません。ぜい肉が付きづらい体質も父譲りなのか…。ともあれ、仕上がりは申し分ない。毛ヅヤも抜群です。キタサンブラックの被毛が鹿毛なら、こちらは見栄えのいい青鹿毛。親の七光といいますが、春の日差しを浴びて父親よりもブラックに輝いています。(NHK解説者)
◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の77歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。