馬の運送会社に聞いた 安全運転で競走馬を輸送熱とストレスから守ってます!
2022年6月8日 19:05 競馬ファンなら誰もが一度は耳にしたことがある輸送熱。関西馬匹運送協同組合の理事長を務め、鷹野運送株式会社の代表取締役・鷹野衛さん(41)は14年にマイナスイオンが発生する装置を馬運車に取り付け、業界でいち早く輸送熱を改善させた。
馬運車のドライバーはサラブレッドを乗せて、全国各地を駆け回る。競馬開催を裏方でサポートする仕事だ。競走馬はデリケートな生き物。輸送中の過ごし方が結果に大きく影響すると言っても過言ではない。鷹野さんは「急ハンドル、急発進、急ブレーキ。この3つは競走馬の輸送においてご法度。トレセンから競馬場までストレスを与えずに運ぶことがドライバーの仕事です」と馬ファーストの姿勢で取り組んでいる。
今週から函館開催がスタートする。出走を予定する関西馬は栗東トレセンから馬運車に揺られ、21時間かけて函館に向かう。その時間は手綱でつながれ、身動きが取れない態勢。精神的な部分でダメージを受ける馬は一定数いる。長距離輸送による疾病の代表的なものは輸送熱。これは輸送によって発熱する病気で、ひどい場合は予後不良になることも…。馬運車業界にとって大きな問題だった。
「輸送熱はふん尿から出る菌が原因。時間がたてばたつほど腐敗して、馬運車の中に菌が浮遊してしまう。密閉空間の中では馬は緊張状態にあり、呼吸回数が多く、喉が乾燥しやすい。そこに菌が入ると免疫力の下がっている馬は熱を発症。出走にも影響を及ぼす」
解決する方法はないのか。いろいろな業界の方々と話し合い、情報を交換。14年にマイナスイオンが発生する装置を車内に取り付けた。「10年以上、考えて、たどり着いたのがプラズマクラスターの導入でした。浮遊する菌を取り込み、除菌して奇麗な空気を出す。家庭用に例えるとナノイー(空気中の水に高電圧を加えることで生成されるナノサイズの微粒子イオン)が分かりやすいかな」。プラズマクラスターが世間に浸透し始めたのが、ここ10年ほどの出来事。業界でいち早く取り入れ、輸送熱はほぼゼロと改善した。「馬のためになるなら何でも試そう」。常に輸送環境のことを考え、時代を先取り。関西では業界トップクラスの地位を確立している。
滋賀県栗東育ち。先代だった父の死に伴い、25歳で経営を引き継いだ。キャリアは16年になる。この仕事をやっていて最も楽しい瞬間は送り届けた馬が勝った時。「レース後に担当のスタッフさんや調教師さんから、ありがとうと言われることが何よりの幸せです」。無事に送り届け、無事に戻ってくる。億超えの高額馬を輸送することだってある。ドライバーは想像以上に神経を使う仕事。まさに職人だ。北は北海道から南は九州まで。安全をモットーに鷹野運送は今日もどこかで馬運車を走らせている。