【エリザベス女王杯】ナミュール100点 冬毛知らずのサザンカ 立冬迎えてもピカピカ毛ヅヤ
2022年11月8日 05:30 立冬の新女王だ。鈴木康弘元調教師(78)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第47回エリザベス女王杯(13日、阪神)ではナミュールに唯一、満点をつけた。達眼が捉えたのは秋華賞(2着)から中3週でもダメージひとつない立ち姿。立冬を迎えても抜群の毛ヅヤを保つ3歳牝馬が古牝馬勢を一蹴する構えだ。
暦の上では昨日から冬の入りを告げる立冬です。およそ2週間続く立冬の中でも7~11日の初候は「山茶始開」、山茶花(サザンカ)が咲き始める季節。自宅に近い筑波山麓を散策していると、山茶花の生け垣には大輪が誇っています。だが、赤や黄に紅葉するケヤキやカエデと違って葉の色はほとんど変わらない。四季を通じて常に緑葉を保つ常緑樹だからです。特に若い葉は変色しない。色あせることを知らないナミュールの被毛のようです。
立冬の頃になると、多くの牝馬、特に古牝馬は牡馬よりひと足早く冬支度を始めます。体を冷やさないように冬毛も伸ばす。出産という大仕事を受け持つ母性の本能が働くせいですが、冬毛の交じった被毛は光沢を失って、くすんだ色に変わってしまう。今、エリザベス女王杯出走馬の毛ヅヤを見渡しても、少なからず冬毛をかぶっている。デアリングタクト、ジェラルディーナ、アカイイト、ウインキートス、テルツェット…。古馬勢の毛ヅヤは暖かい時季に比べて大なり小なり落ちています。
ところが、3歳牝馬ナミュールの鹿毛には1本の冬毛も交じっていない。秋華賞同様、抜群の毛ヅヤを保っています。季節の移り変わりに左右されないターフ界の常緑樹。繁殖に行かず、まだまだ現役を続けたい…母性本能よりも競走本能が強いせいなのか。それとも、よほど新陳代謝が活発なのか。ともあれ、抜群の体調。光沢のある毛ヅヤが秋華賞から中3週のローテでも不安なしと雄弁に語っています。
馬体の張りも秋華賞時から落ちていません。前後肢には母の父ダイワメジャー譲りの厚手の筋肉が隆起している。顔つきも穏やか。澄んだ目、ハミを柔らかく受けながら尾を自然に流している。秋華賞の接戦から中3週でも反動なし。心身両面で非常に充実しています。
ひとつだけ気になるのは半馬身及ばなかった秋華賞(2着)の4角での動きです。不自然な手前(軸脚)の運びで外へ膨れた。スピードが乗る勝負どころ。スムーズに回っていれば勝っていたでしょう。再び同じ阪神内回りコースで鞍上・横山武騎手が4角の難所をいかに乗り切るか。
常緑樹・山茶花のように立冬を迎えても色あせない鹿毛の馬体。その花言葉は「困難を乗り切る」。山茶花が大輪を咲かせる「山茶始開」の季節です。(NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の78歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。