【書く書くしかじか】松井装蹄師の誇り 裏方に徹して競走馬の脚元守る

2023年3月22日 10:15

高松宮記念の出走馬ではメイケイエールとダディーズビビッドの装蹄を任されている松井装蹄師

 ▼日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は栗東取材班の坂田高浩(38)が担当。高松宮記念の出走馬でダディーズビビッドとメイケイエールの装蹄を任されている松井隆幸装蹄師(42)を取材。競走馬の脚元を支える装蹄師のやりがいを語ってもらった。

 競走馬は500キロほどの体重を四肢で支えながら疾駆する。必要以上に摩耗する蹄を守るために蹄鉄を履く。人間で言う運動靴で、それぞれフィットする形が違う。装蹄師が日々、ケアをする中で担当馬について察知することは多い。

 以前ゴールドシップの祝勝会で同席し、その後、取材させてもらうようになった松井装蹄師は「蹄だけじゃなく、筋肉のしなりだとかバランスでオッと思ったこともあります」と話す。「例えば左前脚を上げ、他3本で立った状態で、それぞれ見ていくうちに、前と後ろで筋肉が連動していないというか、どちらかに緩さがあるとかです」と説明した。思い出のゴールドシップについては「大体の馬は脚が曲がっているんですけど、あの馬は真っすぐで体のブレもない。宝くじが当たったくらい珍しいレベル。脚元で苦労したことはないです」と振り返った。

 松井さんは高松宮記念の出走馬では2頭の装蹄を任されている。メイケイエールのデビュー時の印象は「脚が長い」。「競馬ではガーッと行ってスイッチが入るイメージだけど、普段はおとなしくてスッと脚を上げてくれます。一般的によくいるタイプの内向で、蹄も奇麗ですね」と心配事はないようだ。

 一方で、ダディーズビビッドは蹄に弱さを抱えて難しさがある。2走前の睦月Sは「(神経がない部分の)蹄壁が薄く、痛いところがあった」と振り返り、そのため接着装蹄を選択した。その後、痛みがなくなり、阪急杯は通常の蹄鉄で臨んで2着。「様子を見ながら、次のG1はどうしようかという感じ。瞬発力があって秘めるものがあるので、いい状態で出てくれれば」と経過観察を続けて最善を尽くす。

 仕事に向き合う姿勢として「G1でも未勝利でも変わらない」と言う。続けて「僕らの仕事はミスできない。蹄を傷めて出せないっていうのは駄目。今週どうしても使いたいっていう馬がいれば処置し、歩様を良くして競馬に向かってもらう。装蹄師は重要なポストだと思います」と信念を語った。それでも、あくまでも主役は競走馬。理想は「トラブルも何もなく自分は縁の下の力持ちで、ただ馬が凄いっていうのが一番いい」と黒子に徹する。

 松井さんはディープインパクトの装蹄師として知られる西内荘装蹄師の下で15年間修業し、19年4月に装蹄所を開業した。「考えることは(弟子時代より)多くなりました。責任は自分についてくるし、仕事がもらえるかどうかは腕次第。これまで装蹄で嫌になったことはないし、手に合っています。鉄を叩いたら叩いた分だけうまくなるので」と充実感を漂わせた。競走馬が脚元の不安なくゲートインできるよう、研鑽(けんさん)を積んでいく。

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