【大阪杯】スターズオンアース95点 “男体”しのぐ高くて大きいキ甲 名峰の頂
2023年3月28日 05:30 筑波の名峰、女体山の輝きだ。鈴木康弘元調教師(78)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。春の古馬中距離チャンピオン決定戦「第67回大阪杯」(4月2日、阪神)ではヒシイグアスとともに、スターズオンアースを1位指名した。達眼が捉えたのは女体山のように馬体の頂に高くそびえたキ甲と、山頂に点在する岩塊のように隆起した筋肉。昨春の2冠牝馬が古馬になって進化を遂げた。
つくば市内の拙宅から20キロ北にそびえる筑波山ではユリ科の多年草、片栗の花が見頃を迎えています。3万株の片栗が一斉に花弁を広げ、日本百名山に挙げられる東西2つの峰を薄紫色に染め上げています。東側に屹立(きつりつ)するのが標高877メートルの女体山(にょたいさん)、西側には871メートルの男体山(なんたいさん)。女体のほうが背が6メートル高い。そんな山頂は昨年の2冠牝馬スターズオンアースの背を想起させます。
体高の頂点となるキ甲(背と首の間の膨らみ)が牡馬よりも高くて大きい。3歳時から目立っていましたが、古馬になって一層高くそびえ立っています。馬はキ甲で目方を背負う動物。その支点が牡馬よりも立派とあれば、初めて課される重量56キロも楽々克服するでしょう。
今年1月に負担重量の規定が変更されました。G1定量戦では4歳以上牡馬が57キロから58キロへ、同牝馬は55キロから56キロへ。カンカン泣きする(重い負担重量に苦しむ)馬にとっては悲鳴を上げたくなる1キロ増ですが名峰の頂のようなキ甲なら何の不安もありません。
古馬になって筋肉量も増えています。上腕から前腕(前肢)、股からスネ(後肢)にかけての筋肉は女体山の頂に点在する岩塊のように隆起しています。腕やスネがこれほど盛り上がった牝馬はめったに見かけません。3歳時以上に推進力が増すでしょう。
毛ヅヤもさえています。黒鹿毛の被毛が黒光りしている。冬毛が残りやすい今の季節の牝馬にしては珍しい。体調がよほど良いのでしょう。毛の長さが目立つジェラルディーナとは対照的です。
昨年の秋華賞以来5カ月半の休養明け。腹周りには余裕があります。今週の調教と、美浦トレセン→阪神競馬場(約590キロ)の長距離輸送でどこまで絞れるかでしょう。それ以上に気になるのが立ち姿です。昨年は四肢に力を入れて立っていたが、今回は力みが取れている。顔つきも穏やかになった。気性が成長したのか、それとも、気持ちが入っていないのか。立ち姿から読み取るのは難しいが、前者だとすれば歴戦の古馬勢も一蹴できるでしょう。男体山をしのぐ名峰、女体山のように高く美しく輝いています。(NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の78歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~2004年に日本調教師会会長。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。