菊沢師と横典とNHKマイルC
2023年5月5日 05:00 【競馬人生劇場・平松さとし】17年NHKマイルCを制したアエロリット。管理した美浦・菊沢隆徳師にとって、これが初めてのG1制覇。当時、次のように語っていた。「ジョッキー時代も勝てなかったG1を制すことができてうれしいし、責任を果たせてホッとしました」
このレースで抜群のスタートを決めたアエロリットを見た時、菊沢師は次のように思ったという。「うちのだけ前扉が早く開いたのかと思うくらい速く出ました。ただ、東京の1600メートルという舞台を考えると“逃げるのは嫌だな…”と感じました」
その祈りが通じるようにアエロリットは抑えられて番手で流れに乗った。「デビュー当初は掛かることもあったけど、前走(桜花賞5着)では上手に折り合って、それがNHKマイルCでも生きました」
そう語ると「それらは全て鞍上のおかげです」と続けた。鞍上は横山典弘騎手。抜群のスタートを切りながら番手に抑えたのも、過去の競馬ぶりを糧に桜花賞で折り合わせたのも同騎手だった。菊沢師の義兄でもあり、同師が騎手時代に目標とした騎手でもあった。そして、皮肉なことに菊沢“騎手”が引退する一因ともなるジョッキーでもあったのだが、それについては後述しよう。
菊沢師が騎手としてデビューしたのは88年。以来、10年にムチを置くまで実働22年間。本人が言うように、G1勝ちがなかったのは事実だ。しかし、彼の騎手時代を知る人なら誰もが“味のある上手な騎手”だったと記憶しているだろう。ローゼンカバリーによる99年目黒記念など、JRA重賞は計10勝。通算でも639勝を記録した。
しかし、そんな菊沢騎手はある時、思ったという。「騎手としてノリさん(横山典騎手)にはかなわない」。それが調教師を目指すきっかけとなった。そして、実際に調教師となると、横山典騎手を乗せて勝ったのがNHKマイルCだったのだ。さて、今週末に行われる今年の3歳マイル王決定戦はどんなドラマが待っているだろう…。 (フリーライター)