【宝塚記念】イクイノックス150点 日本が世界に誇る名馬の完成形
2023年6月20日 05:30 未完の大器がついに完成した。鈴木康弘元調教師(79)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。春のG1シリーズを締めくくる「第64回宝塚記念」(25日、阪神)ではG13連勝中のイクイノックスに異例の150点をつけた。達眼が捉えたのは進化を遂げた完熟の立ち姿。ファン投票で歴代最多の21万6379票を獲得したスーパーホースが満点(100点)超えの馬体で春秋グランプリ制覇に挑む。
日本が世界に誇れる比類なき名馬。昨年の有馬記念以来、半年ぶりに目にしたイクイノックスは深い感銘を与えるスーパーホースに変貌していました。脚に根が生えたようなどっしりと安定した立ち姿。2週前に移動した栗東トレセンで撮った写真ですが、住み慣れた美浦トレセンでくつろいでいるような余裕と落ち着きがあります。それでいて、顔立ちは精悍(せいかん)。ハミをゆったりと受けながら瞳の奥に闘志の炎を燃やしています。立ち方は前肢に6割、後肢に4割、6対4の理想的な負重をかけている。脂が乗る4歳の現役競走馬なのに一時代を築いた大種牡馬のような貫禄と風格があります。
昨年の有馬記念時はサンタクロースに魔法をかけられたような変身ぶりだと評しました。青びょうたんと呼びたくなるほど薄かったトモが力強く張り出し、その中心部にある臀筋はサンタの力こぶみたいに隆起していた。それから半年、臀筋のくびれは一層大きくなった。トモの成長だけにはとどまりません。筋繊維が浮かび上がりそうになるほど繊細な全身の筋肉はより大きく、より力強くなった。そのせり上がった筋肉を華麗にラッピングするように青鹿毛の被毛が漆黒の光沢を放っています。内面からにじみ出す深い輝き。これ以上は望むべくもない磨き抜かれた馬体。昨年の皐月賞時から馬体診断のたびに「未完の大器」と言い続けてきましたが、ついに完成の域に達しました。
3歳春当時からアゴはあまり張っていません。食が細そうなスマートな顔つきですが、ひと夏越してカイバをしっかり食べられるようになったのでしょう。加減せずに鍛えることができた。脚元は腱がしっかり浮き出ています。強い調教に耐えられる丈夫な四肢も驚異的な成長を後押ししました。
いまさら言うまでもありませんが「イクイノックス」の意味は「昼と夜の長さがほぼ等しくなる時」です。日本では春分の日と秋分の日にあたります。昨年の秋分の日から今年の春分の日までの半年で飛躍的な進化を遂げたイクイノックス。西の大一番に備えて栗東トレセンで悠然とハミを受ける姿は比類なき名馬の完成形です。(NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の79歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~2004年に日本調教師会会長。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。