【追憶のマイルCS】89年オグリキャップ 好漢・南井を泣かせた執念の差し切り
2023年11月15日 06:45 G1を連闘する…。トライアルを使わずにG1へと向かうことが当たり前となった現代競馬からは想像がつかないが、マイルCSから中6日でジャパンCへと向かった馬がいた。89年、芦毛の怪物、オグリキャップだ。
マイルCSは圧巻だった。前走の天皇賞・秋で武豊操るスーパークリークの前に2着に敗れた南井克巳騎手(当時)。その心中はメラメラと燃えていた。
「負けてはいけない馬で負けた。借りを返したい」。馬は違えど、今回も目の前に立ちはだかるのは武豊騎手。パートナーはバンブーメモリー。同年の安田記念を制し、ステップレースのスワンSを3馬身半差で完勝していた。オグリにとって簡単な相手ではなかった。
単勝1・3倍。オグリキャップは抜けた1番人気となったが、レースは厳しいものとなった。スタートでわずかに遅れた。二の脚を駆使して5番手のインを確保したが、直後ではバンブーメモリーが息を潜めていた。
4角手前。早々と南井騎手の手が動く。一方、武豊騎手の手応えは絶好だ。スムーズに外へと出るバンブーメモリー。オグリは前をホリノライデン、内をトウショウマリオ、外をバンブーメモリーに囲まれ、一瞬、スピードを緩めざるを得なくなった。しかし、トウショウマリオが横に動きつつ下がった。オグリは間をスパッと抜けた。
満を持して先頭に立つバンブーメモリー。オグリキャップも何とか内に進路を確保し、武豊を追う態勢を整えた。だが、バンブーメモリーの勢いは衰えない。残り200メートル。2馬身差。勢いの差からみて、ほぼ勝負は決したと思われた。
だが…そこからオグリが迫る。南井騎手の右ムチ連打に応え、1完歩ずつバンブーメモリーとの差を詰めた。1馬身、半馬身、首…。そしてゴール前でついに並んだ。
関西テレビの放送ブースでは「もう同着でもいいんじゃないか」と杉本清アナ(当時)が正直な感想を口にした。しかし、ゴールから3分45秒後、勝負は決した。オグリキャップが鼻差、勝っていた。
お立ち台に上がった時、南井騎手は泣いていた。「こんなに強い馬に乗せてもらって、この間負けましたからね。オグリへの借りはまだ半分しか返してない。来週のジャパンCで倍にして返したいと思います」。場内からは割れんばかりの拍手が起きた。
レース確定から2時間後、オグリキャップは馬運車に乗せられ、東京競馬場へと向かった。1週間後、ジャパンCで南井騎手の“倍返しリベンジ”はならなかったが、女傑ホーリックスとの火の出るような叩き合いで再びファンの胸を打つことになる。