【阪神JF】アスコリピチェーノ95点 2歳冬の女王へ羽ばたく ダイワメジャー産駒らしからぬ美ボディー
2023年12月5日 05:30 鳶(とび)から生まれた鷹はG1タイトルを目で射抜く。鈴木康弘元調教師(79)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第75回阪神ジュベナイルフィリーズ(10日、阪神)では新潟2歳S優勝アスコリピチェーノに最高点の95点をつけた。達眼が捉えたのは父ダイワメジャーとは似ても似つかぬしなやかな馬体と鷹のような鋭い目。3戦無敗で2歳女王の座を射止める構えだ。
師走の声を聞くと、自宅にほど近い筑波山周辺の干拓地はバードウオッチャーでにぎわい始めます。「キーッキーッ」。北方から飛来した鷹の鋭い鳴き声に、鳶の「ピーヒョロロ」という愉快なさえずりが二重協奏曲のように重なって聞こえてくる。鷹と鳶。どちらもタカ目タカ科に属する猛禽(もうきん)類ですが、鳴き声も違えば体つきも異なる。太い足と角張った尾を持つ鳶。対照的に鷹は長い足と扇形の美しい尾を備えています。「鳶が鷹を生む」といいますが、これほど姿が違う鷹を生むことはあり得ません。
ところが、サラブレッドの世界ではしばしば鳶が鷹を生みます。たとえば、アスコリピチェーノ。筋肉マッチョな父ダイワメジャーは産駒にも分厚い筋肉を伝えてきた種牡馬です。産駒にはボンドガールのようなバキバキの筋肉女子が圧倒的に多いが、アスコリはスラリとしなやかな体形。筋肉量はさほど多くない代わりに柔軟性に富んだ筋肉を身につけています。キ甲(首と背中の間の膨らみ)から肩先までの傾斜はとても滑らか。首差しもきれいに抜けている。父のごつい馬体とは真逆のしなやかな美しい肢体です。
曇りの日の栗東トレセン出張馬房前での撮影。日差しがないため馬体写真から毛ヅヤは分かりづらいが、唯一くっきり写った臀部(でんぶ)の被毛は輝いています。被毛の内側も柔らかい筋肉で張りをたたえている。出張先でも体調を維持できているようです。両前肢のつなぎは硬めですが、柔らかい膝で着地時の衝撃を吸収しています。
2歳にしてキ甲が抜けているステレンボッシュに比べて、こちらは未完成。成長待ちの馬体ですが、疲れがたまりづらい柔軟な筋肉、余裕のある骨格のつくりから中距離にも対応できます。つくりに遊びがないマイラー型が多いダイワメジャー産駒らしからぬ体形。「親に似ぬ子は鬼子」といいますが、その目には鬼より鋭い、空中で獲物を狙う鷹のような闘争心を宿しています。
「キーッキーッ」。師走の干拓地に集ったバードウオッチャーの耳をつんざく鋭い鳴き声のように、鳶が生んだ鷹はホースウオッチャーに訴えかけてくる。美しさと鋭さを併せ持つサラブレッドです。 (NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の79歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~2004年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。