ダイワスカーレット 流麗な馬体健在 “ミス・パーフェクト”は20歳「1男10女」もうけ故郷で余生

2024年8月9日 05:27

社台ファームで余生を過ごすダイワスカーレット

 東京本社の“馬体派記者”田井秀一(31)が、かつてターフを沸かせた引退名馬の近況を取材する夏の連載企画「田井秀一の優駿を訪ねて」(全4回)。初回は昨年末に繁殖牝馬引退が発表されたダイワスカーレット(牝20、父アグネスタキオン)。生まれ故郷の社台ファーム(北海道千歳市)で余生を過ごす“ミス・パーフェクト”は今も美しかった。

 広大な敷地を誇る社台ファームの一角。功労馬などが暮らす閑静な厩舎で、20歳になったダイワスカーレットが余生を送っている。現役当時と変わらぬ美しい栗毛、母スカーレットブーケ譲りの愛らしい瞳、鮮やかな流星。ひと目でそれと分かる流麗な姿は健在だ。引退まで12戦、一度も連対を外さず“ミス・パーフェクト”の異名にふさわしい戦績を残したスカーレットはどのような馬なのか。日々、同馬を見守っている桶川茂樹厩舎長に聞いた。

 「本当に手がかからない馬。穏やかで、従順で、人の言うことを聞いてくれる。放牧中でもカメラマンさんが構えると寄っていってポーズを取ってみたり。人懐っこく賢いですし、求められていることが分かっているのかな。たまに我の強さを見せて、人をグイッと引っ張っていくこともありますけど、基本的にはずっとデレデレしていますよ」

 ターフを去ったのち、母として1男10女をもうけた。「子育ては放任主義で、子供が遠くに行ってしまってもマイペース。中には“私の子供だから!”とべったり付く母馬もいますが、スカーレットは“遊んできなさい”といった感じでした」。21年には第11子にして初めての牡馬(グランスカーレット=3歳現役)が生まれて大きな話題にもなった。昨年に繁殖牝馬を引退。「最後が難産だったので体重が落ちてしまって、一時はどうなるかと思いましたが、治療やスタッフの努力のかいもあって回復しています」。現在550キロ。体重が増え過ぎると爪への負担が増すため食事量を調整しているという。

 異名“ミス・パーフェクト”通りの優等生イメージが強いが、明確に好き嫌いを示すことも。カイバの種類を変えようと試行していたところ、バランサーと呼ばれる飼料(ミネラルやタンパク質の含有率が高いペレット状のもの)は「鼻をうまく使って“これはいらない”ってよけて、かたくなに食べなかった」そう。「どうにもお気に召さないみたいで。試しにバランサーだけにした時は全く口をつけませんでした」。完全無欠なスカーレットにも苦手なものはあるようだ。

 日中に気温が上がる夏は夜間放牧で運動量を確保。同じ放牧地には同い年のクィーンスプマンテもいる。立ち写真撮影中も、放牧地にいるスプマンテの方をチラチラと見て寂しがっていた。「同じ逃げ馬、エリザベス女王杯勝ち馬同士、仲良くしています。立場は少しスカーレットが上かな(笑い)。集牧の時はスプマンテが“どうぞ”という感じで、スカーレットが先に馬房へ戻ります」

 その馬房では“ウマ娘のダイワスカーレット”がお出迎え。「スタッフが持ってきたウマ娘のグッズを看板(ネームプレート)の前に飾っています。ウマ娘がきっかけでスカーレットのことを知った人も多いみたいですね。自分もちょっと見ましたけど、スカーレットはずっとウオッカとケンカしてて…(笑い)」。現役を退いて15年たった今もファンは拡大中だ。

 完璧な競走成績を残し、名血を次代につなぐ重要な使命も果たし、これからは悠々自適な第3の馬生へ――。その美しい肢体を見れば、生まれ故郷の社台ファームでどれだけ大切にされているのかがひしひしと伝わってくる。

 ◇田井 秀一(たい・しゅういち)1993年(平5)1月2日生まれ、大阪府出身の31歳。阪大卒。道営で調教厩務員を務めた経験をもつ。BSイレブン競馬中継解説。netkeiba「好調馬体チョイス」連載中。08年天皇賞・秋の時はまだ高校生。野球部の練習を抜け出して観戦も、写真判定が長過ぎてバレる。

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