【追憶の天皇賞・秋】17年キタサンブラック 特殊な馬場を味方につけろ 神がかった武豊騎手の判断

2024年10月23日 06:45

17年、天皇賞・秋を制したキタサンブラック騎乗の武豊は馬上でガッツポーズ(撮影・近藤 大暉)

 「パトロールビデオ」をご存じの方は多いと思う。競馬場の外周沿いに建てられた「パトロールタワー」から撮影する映像で、各馬の位置取り、不利はないか、進路妨害はないか、などを裁決委員がチェックするものだ。

 このパトロールビデオ。今やJRAの公式ウェブで見ることができる。「この1頭分のスペースを突き抜けたのか」「こんな外から飛んできたのか」など、いわゆるテレビの映像とは違った強さを堪能することができる。

 パトロールビデオを見て改めて、その強さが分かるのが、この不良馬場で行われた天皇賞・秋だ。キタサンブラックを操る武豊騎手のコース取りは神がかっていた。

 キタサンブラックは珍しく出遅れる。ゲートが開く前に突進し、前扉に顔をぶつけた。いきなり後方から2番手。スタンドがどよめく。だが、ここから冷静に運ぶのが武豊騎手だ。

 他馬が嫌う内へとハンドルを切った。向正面で徐々にポジションを上げる。武豊騎手は返し馬で感触をつかんでいた。「特殊な芝だったが、返し馬の感じでこなせると思った。リスクはあるが思い切って内へと誘導した」。馬場のどの部分までならキタサンブラックはこなせるのか。返し馬から丹念にチェックした。名手は周到に準備していた。

 その後も3~4コーナーを最小半径で回り続け、4角では何と2番手。そこからが、また素晴らしい判断だった。外へと動かし、4分どころ付近で右ムチを入れた。不良馬場とは思えないほど、スムーズな脚さばきでキタサンブラックは先頭に立った。

 よく見ると、周囲の馬たちの脚元からは水しぶきが時折上がり、土が掘られて後方へと飛ぶ様子が見て取れる。だが、キタサンブラックの脚元からは、そんな様子が一切見られない。通るべきコースはどこなのか、武豊騎手はしっかりと分かっていたのだ。

 最後はサトノクラウンに詰め寄られたが、首差しのいでフィニッシュ。通ったコースが少しでもずれていれば、サトノクラウンが勝ったのではないかと思えた。「サトノクラウンの蹄音は聞こえていた。必死だったが冷静に対処できた」。武豊騎手にしかできない勝ち方だった。ファンの歓声がいつまでもやまなかった。

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