【有馬記念】鈴木康弘氏 レガレイラにとって無駄ではなかった皐月賞、ダービーの経験
2024年12月23日 05:23 【鈴木康弘 達眼解説】経験は最上の教師である。しかし、授業料は高くつく。そんな名言を残したのは19世紀の英国の歴史家トーマス・カーライルでした。歴戦の古馬相手でもひるむことなく末脚を伸ばしたレガレイラ。その3歳牝馬の堂々たる走りには春の厳しい経験が生かされていた。
「非の打ちどころがない体つきだが、一線級の牡馬と戦うには目が優し過ぎる」。ダービー時の馬体診断とNHKのパドック解説ではこんな指摘をしました。画竜点睛を欠くとまでは言いませんが、睛(瞳)だけが物足りなかった。その瞳が春のクラシックの激闘を経て一変していました。相手を射すくめる竜の鋭いまなざしです。目は心を映す鏡。牡馬にモマれる春の経験で培われたタフな心を映し出していた。
後方から末脚勝負に懸けたクラシックとは一転、5、6番手につけた馬群の中でもひるまず、掛からず、ストレスをためず、内からロスなくスムーズに抜け出してきました。トリッキーな中山2500メートルコースはこう進めという手本のようなレースぶりです。外から迫ったシャフリヤールとは鼻差。コース取りの差が勝因とも言えるでしょう。
しかし、私はこれまでの道のりに勝因があると思います。歴戦の古馬と馬体を併せても一歩も譲らず内めを回れたことに値打ちがある。そんな走りを可能にしたのは皐月賞、ダービーの経験。牝馬クラシックに回ればもっと着順が上がったかもしれない。その意味ではトーマス・カーライルの名言通り、授業料が高くつきましたが、春の経験は無駄ではなかった。強い心を育てる最上の教師になりました。(NHK解説者)