【追憶の阪神大賞典】96年ナリタブライアン 最初から最後まで2頭の競馬 ラスト2完歩で奇跡の大逆転
2025年3月19日 06:45 ベタで申し訳ない。ナリタブライアンとマヤノトップガンの火の出るような追い比べ。平成の競馬の中でも屈指の名勝負とあって、ご存じの方も多いと思うが、新しめのファンの方のために、改めて取り上げたい。
10頭立て、良馬場の大一番だった。1番人気はマヤノトップガン。今でいう4歳馬。前年秋は3番人気で菊花賞を制し、有馬記念は6番人気ながら逃げ切った。4歳春を迎え、大目標の天皇賞に向けて、ここは負けられないところ。単勝2.0倍。
一方のナリタブライアンは言わずと知れた3冠馬。無敵の進撃を誇ったが、95年阪神大賞典優勝後に股関節炎を発症。天皇賞・秋で12着に敗れた。だが、そこから徐々に持ち直し、ジャパンC6着、有馬記念は4着(1着マヤノトップガン)。そろそろ立ち直ってきたか、と思わせた。2番人気ながら単勝2.1倍。マヤノトップガンとさほど変わらぬ人気を集めた。
そしてレースは最初から最後まで2頭による競馬だった。4番手の外で、いつでもスパートできる位置を占めたマヤノトップガン。その直後、スパートした瞬間についていくぞ、という姿勢を見せたナリタブライアン。
2頭に動きが見られたのは2周目の3角。マヤノトップガンが動いて早くも先頭に立つ。すかさず、ノーザンポラリスと並んでマヤノトップガンを追いかけたナリタブライアン。この時の競馬場内の歓声は凄かった。「うおお」という数万の声が今もネット越しに伝わる。
この時点でラップは11秒台前半。ノーザンポラリスはついていけず、2頭だけの競馬となった。2頭並んで直線を向く。全く並んだまま。「ナリタブライアンか、マヤノトップガンか。マヤノトップガンか、ナリタブライアンか」。名実況が観衆をあおり、競馬場がヒートアップした。
残り100メートルを切ったところで、わずかにマヤノトップガンが出たように見えた。だが、そこからミラクルが起こる。ゴールまで残り2完歩。ナリタブライアンがグイッと前に出た。「どちらか?分からない」。実況はそうアナウンスしたが、鞍上の2人は分かっていた。ナリタブライアンの武豊騎手は右腕でガッツポーズをつくった。
「絶対に負けられないと誓って乗りました。ゴールの瞬間、鳥肌が立ちました」。武豊騎手は語った。それは場内5万9896人の大観衆も同じだった。筆者はレース後、手のひらに汗をかき、ゾクゾクとした熱い思いが体を貫いていた。
ナリタブライアンにとって、これが最後の白星となったが、この勝利の意味は大きかった。やっぱりナリタブライアン。そう思わせるに十分だった。そして、勝つべき一戦で、いったんは窮地に陥りながらも勝ち切る武豊騎手。名手の凄みを存分に見せつけた一戦だった。