【東海S】プール調教“大好き”エートラックス 宮本師「人間と同じ効果がある」

2025年7月23日 05:30

栗東トレセンでプール調教を行うエートラックス(撮影・坂田 高浩)

 今夏の水曜企画「夏リポ」は記者がテーマを考え、関係者に質問をぶつけて深掘りする。第5回は大阪本社の坂田高浩(40)が担当。夏と言えばプールだ!!人間と同じく、競走馬にとってもさまざまな効果が見込める「プール調教」にスポットを当てた。27日の東海Sに出走するエートラックス(牡4=宮本)もデビュー前から活用。調教の様子を撮影し、その狙いや施設の特性について取材した。

 栗東トレセンの「競走馬スイミングプール」は1988年8月、強い馬づくりおよび故障馬のリハビリを目的として設立された。施設内には(1)馴致(じゅんち)用プール、(2)直線プール(長さ25メートル、幅員2メートル、水深3メートル)、(3)円形プール(1周50メートル、幅員3メートル、水深3メートル)が設置されている。

 未経験の馬は(1)から順番に慣らしていく。馴致用プールを常歩(なみあし)通過することから始め、それができれば約30センチの水を張った状態で繰り返し、次は直線プールへ。馬は臆病な動物のため最初こそこわごわしながら入るが、“カナヅチ”もいる人間と違い、浮力が強く働くので全く泳げない馬はいないという。

 夏の中京開幕重賞・東海Sに出走するエートラックスはデビュー時からプール調教を取り入れてきた。この馬に限らず、管理する宮本厩舎は基本的にプール調教を行っている。指揮官は「気分転換。リフレッシュできて人間と同じような効果があるから」と説明。担当の久保助手は「嫌がる馬はストレスをためてしまうので見極めが必要。エートラックスは(デビュー前に)馴致用プールに行ってもすぐに慣れたし、気持ち良さそうに泳ぐので合っていると思った」と振り返った。

 厩舎の洗い場では他馬と向かい合わせになると、神経質な面を出してテンションが高くなるという。「だから連れて行くというのもある。この馬にとってはいつものこと。プールがあって助かるよ」と続けた。中間は週に3、4回通っている。夏場は洗い場で体を冷やし、ぬれたままの状態でプールに向かう。「冬場だと馬服を着せたりするけどね。風に当てた方がいい」と暑さ対策も兼ねている。

 では、実際にどのように泳いでいるのか。先週16日は坂路での1週前追い切り後、円形プールを1周。脚洗い場で泥を落とし、慣れた様子で入水すると顔を出したまま脚をキビキビと動かし、全身の筋肉を使って進んでいた。思った以上の推進力であっという間に終了。50メートルの円形プールを1周40秒で周回すると、データ上では馬場1Fを13~15秒で走る速度に相当。馬場を250メートル走った時と同等の負荷がかかるという。

 追い切り後にプールに入る馬は珍しいようだが、エートラックスにとってはルーティン。心肺機能や基礎体力の向上に加えて、背腰の緊張が取れるなどストレッチ効果でイライラが解消される傾向にある。「上手に泳ぐ方だと思う。速く泳ぐ方ではないけど、むしろ、その方が効果がある気がする」と分析。そして「脚元が悪くてプールを使う馬もいるけど、この馬はそうじゃない。馬場での調教がメインであくまでプラスアルファ的なもの。気持ち良さそうにしていて、プール好きな馬」と位置づける。

 栗東トレセンのプールは27日から8月25日まで約1カ月間、ろ過装置のメンテナンスなど工事のため閉鎖される。“プール愛用馬”のエートラックスには痛いが、27日に出走を控えており、一戦ごとに放牧を挟むのがパターンだけに影響は少ない。前走の東京スプリントで約1年ぶりの勝ち星を挙げた4歳馬。その躍進にプール調教が一役買っている。

 【取材後記】
 プール調教でも競走馬の個性が見て取れる。泳ぎ方ひとつとってもそれぞれ違うのだという。長沼秀一業務課スイミングプール担当は「10頭いたら10通りの泳ぎ方があります。後ろ脚は絶対に動いているんですが、前脚を一生懸命、動かす馬もいれば後ろ脚を3回かいた時に1回とか。右または左だけとか、振り幅がありますね」と解説。バランスの取り方が違うようだ。

 速さについても「人が歩くスピードの平均値を時速4キロとして遅い馬だと3キロぐらい。一方で6キロ近く出して、人が小走りしないと追いつかないぐらいの馬もいます」と千差万別。プール施設が曜日別で最も混雑するのは追い切り翌日の木曜または金曜。厩舎のスタッフが担当馬の泳ぐスピードによって、前の馬との間隔を調整したり、順番を代わったりする光景もよく見られるという。「(速いのは)泳ぎがうまいのか、かく力が強いのか、分からないところはあります」と未解明の面もあるようだ。

 昨年、引退した人気ホースにも面白い傾向があった。「ドウデュースはゆっくりでした。サボっているわけではないでしょうけど、水面を叩くとスピードを上げる。リラックスしてこれぐらいでいいんでしょ、って感じでした。メロディーレーンは逆にめちゃくちゃ速くてグワーッと泳ぐ感じ。そういうのって人間が教えることじゃないですから」と懐かしむ。ちなみにエートラックスはその中間で標準だという。泳ぎの巧拙、スピードが競走成績に結びついていないのも不思議なところ。プール調教を眺めていると、さらに競走馬への愛着が湧いてきた。(坂田 高浩)

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