田中博師が仏で恩人と再会…凱旋門賞へ力強い味方

2025年9月19日 05:05

セドリック・ブータン調教師(左)と肩を組む田中博康調教師(撮影・平松 さとし)

 【競馬人生劇場・平松さとし】

 現地時間14日の午後、田中博康調教師がフランス入りした。最大の目的はもちろん、アロヒアリイ(牡3)の調教に立ち会うこと。

 G1凱旋門賞を見据える同馬は翌15日、決戦の舞台パリロンシャン競馬場でスクーリングを敢行。既にフランスではG2ギヨームドルナノ賞を制していたが、同レースはドーヴィル競馬場でのもの。すなわち凱旋門賞の舞台は未体験。そこで事前にパリへ運び、装鞍所からパドック、そして本番と同じ2400メートルを試走させたのである。

 「追い切りが目的ではなく、まずは競馬場を体感してほしかったので、軽めに終始したのは予定通りです。思った以上に落ち着いていたし、連れて来て良かったです」

 田中博師はそう語った。さらに2日後の17日朝には2週前追い切りを消化。併せ馬で良い動きを披露し「ここまでは順調に来ています」と安堵(あんど)の笑みを浮かべた。

 そして忘れがたい出来事が前日の16日に訪れた。舞台はシャンティイ。11年、騎手として初めてその地を踏んだ25歳の田中青年は、翌12年初頭まで9カ月間滞在。毎朝の調教に騎乗しながらも、なかなかレースの依頼には恵まれず、苦悩の底にいた。夢を胸に海を渡った若きジョッキーは、現実の厳しさをひしと感じていたのである。

 その時、救いの手を差し伸べてくれた人物がいた。現地で厩舎を構えていたセドリック・ブータン調教師だ。彼の名を聞き、オールドファンなら「あれ?」と思うかもしれない。同じく調教師のマチュー・ブータン師は、かつて騎手として短期免許で来日した経歴を持つ。その兄弟にあたるセドリック師が、田中博騎手に調教だけでなく、貴重なレースの騎乗機会を与えてくれたのだ。

 16日の午後、田中博師は恩人セドリック師の自宅を訪ね、感動の再会を果たした。「凱旋門賞へ向けて力になれることがあれば、何でも言ってください」。昔と変わらぬ優しさでそう語った恩師の言葉に、田中博師の胸は熱く震えた。(フリーライター)

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