若き三浦皇成の武者修行を支えた“サー”プレスコット師
2025年10月3日 05:05 【競馬人生劇場・平松さとし】
今週末、いよいよG1凱旋門賞が幕を開ける。22年、この欧州最高峰のレースを制したのはアルピニスタ。管理していたのは英国王室から“サー”の称号を授かった伯楽、マーク・プレスコット調教師だ。
私が初めてニューマーケットにある彼の厩舎を訪ねたのは09年。以来、英国を訪れる際には、できるだけその場所に足を運んできた。敷地にはアルピニスタの母で独準重賞を制したアルワイルダ、そしてその母で独G1を3勝したアルバノーヴァの銅像が並ぶ。
アルピニスタのオーナーブリーダーであるカーステン・ラウジングさんにとっても、ここは特別な場所だ。彼女が初めて重賞を勝ったのはアルバノーヴァの兄アルボラーダであり、その勝利を託したのがサーだったからだ。人と馬との縁を何よりも大切にしてきた調教師とオーナー、アルピニスタの物語は、その積み重ねの先に咲いた結晶だったのだ。
そしてサーの“縁を重んじる心”を物語るエピソードがもう一つある。私の顔を見るたび、彼は尋ねる。「コーセーは元気にしていますか?」。そう、彼が気にかけているのは三浦皇成騎手。08年、彗星(すいせい)のようにデビューを飾り、日本競馬界に旋風を巻き起こした。デビュー2年目には早くも英国修業に旅立ち、3年目も再び海を渡った。その2度の遠征で、若き三浦騎手を支えたのがサー・プレスコット師だった。
象徴的なのは、三浦騎手が英国でのデビュー戦を勝ち取った日のこと。その舞台となったのはフォスラス競馬場。自然の地形をそのまま生かした難解なコースが多い英国において、ここは最も新しい競馬場であり、まるで陸上競技場のようなオーバルコース。しかも平たんで日本の競馬場に近い。「ここならコーセーも乗りやすいだろう」。そんな思いやりから、サーはあえてフォスラスを若き日本人騎手の初騎乗の場として選んだのだ。
あれから16年。三浦皇成騎手はスプリンターズSでついに悲願のG1初制覇を果たした。英国の師は、この知らせをどんな思いで耳にしたのだろう。 (フリーライター)