佐藤哲引退 12年落馬で大ケガ、懸命のリハビリも復帰かなわず

2014年9月17日 05:30

引退を発表した佐藤哲三。会見を終え、ケガをした左手をかばいながら一礼

 “勝負師”が26年間の現役生活にピリオドを打つ。JRA通算938勝(G1・6勝)を挙げた佐藤哲三騎手(44=栗東・フリー)が16日、大阪市内で引退会見を行った。12年11月24日の京都競馬で落馬し、左上腕骨開放骨折、左肩甲骨骨折など全身に大ケガを負った。復帰を目指して壮絶なリハビリ生活を続けてきたが、現役続行は厳しいと判断。京都開幕週の10月12日に騎手免許を返上することを発表した。

 44回目のバースデー前日に会見に臨んだ佐藤哲は、右腕で負傷した左腕を支えながら会見場の席についた。そして引き締まった表情で心境を語り始めた。「変な感じですね。自分の描いていたものとは違う。落馬事故のケガは常にあるもの。怖がらずにレースをしてきた。後悔していないとは言えないが、騎手をしていればあるものだから」

 12年11月24日、京都10Rで騎乗したトウシンイーグルが直線に入った直後にバランスを崩し落馬。落ちた際に内柵の柱に激突した。京都市内の病院に緊急搬送され、左上腕骨開放骨折、左肩甲骨骨折、腰椎横突起骨折、右大腿骨骨幹部骨折など全身に大ケガを負った。その後は復帰に向けて、左足のじん帯を左上腕に移植する23時間にも及ぶ手術など、計6回もの大手術と壮絶なリハビリ生活を続けてきた。

 だが今年1月、医師から「復帰は難しい」と宣告を受けた。「その時15時間の一番重要な手術があった。医師から言われ“無理かな”と思って、けじめをつけようと。ここ1カ月ぐらいが(引退の)カウントダウンかなと思ったら、寂しくなってきた」と振り返った。

 最終的に引退を決断したのは7月30日。デビュー2戦でコンビを組んだキズナが休養中の鳥取・大山ヒルズを訪れた時だった。「キズナが甘えたしぐさをしてきて、むちゃくちゃ“かわいいな”と思ってしまった」ことが契機だという。パートナー(競走馬)に対する“勝負師”としての自身の気持ちの変化を感じたのだ。「引退ということに対して体のことは決めていたが、その時に気持ちの整理をつけようと思った」と明かした。

 記憶に残る“勝負師”だった。自身がボートレースファンということもあり「馬券を買ってくれているファンに対して、死にものぐるいで馬券圏内に入ってやろうと思っていた」と信念を貫いた。中央G1・6勝。03年ジャパンCではタップダンスシチーとのコンビで、9馬身差の圧逃劇を演じファンの心をつかんだ。

 免許の返上はこの日ではなく来月の12日に決めた。その理由について「ケガをしたのが京都競馬場だし、京都で免許を返そうと思った」と説明。そして「(引退後は)馬券を買ってファンと一緒に楽しみながら、JRAを応援していきたい。競馬場から遠い地方のウインズを訪ねて、騎手の話をできれば。旅に出たいですね」と今後の夢を語った。佐藤哲は第二の人生でも“勝負師”の顔を見せてくれるに違いない。

 ◆佐藤 哲三(さとう・てつぞう)1970年(昭45)9月17日、大阪府出身の44歳。89年に吉岡八郎厩舎所属でデビュー。JRA通算10570戦938勝、うち重賞は45勝。G1は03年ジャパンC(タップダンスシチー)など11勝(交流含む)。

 ▼田中勝春 ケガによる引退は不本意だったと思う。同期(JRA競馬学校89年卒業)で騎手を続けているのは2人だけだったし、(佐藤の活躍は)いい刺激になっていた。寂しい。

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