“馬第一主義”で偉業達成の藤沢和師

2020年11月20日 05:30

笑顔をみせる藤沢和雄師(撮影・郡司 修)

 【競馬人生劇場・平松さとし】先日JRA通算1500勝を達成した藤沢和雄調教師。その中には31回に及ぶG1制覇がある。その最初の勝利は1993年、名牝シンコウラブリイによるマイルチャンピオンシップ(以下、マイルCS)だったが、実は同馬は前年の92年にも同じレースに挑戦していた。当時、藤沢調教師は彼女を「ジャパンCに挑戦させたい」と語った。そのためまずは富士Sに出走させたのだが、ここを持ったまま快勝するといきなりジャパンCを回避。連闘でのマイルCS挑戦を表明したのだ。

 「ホームランを打つと言って打席に入りながら送りバントに切り替えたみたいかな…」

 当時、藤沢調教師はそう言って笑ってみせたが、急きょ予定を変更したのには当然、伯楽だからこその配慮があった。

 「富士Sの競馬ぶりを見るとやはりスピードに勝った感じなので東京の2400メートルは長いと判断しました。幸い、疲れもないので連闘にはなるけど、距離適性の高いマイル戦に向かうことにしました」

 結果、初挑戦となったこのマイルCSは2着に惜敗するのだが、一貫してマイル前後しか走らせなかった使い方は、当時としてはまだ珍しい部類だった。

 他にも現在としては当たり前になっている口取り写真撮影の際、鞍を置き直さないといった行為を日本の競馬界に広めたのも藤沢調教師だった。

 「競馬で一生懸命に走ってきた馬に、もう一度、騎手をまたがらせるのはかわいそう」

 伯楽はそう言った。シンコウラブリイと同じ馬主のシンコウバーブという馬では、こんなことがあった。同馬が勝利した後、立ち上がるそぶりを見せた。すると、藤沢調教師は口取り写真の撮影すら行わずそのまま引き揚げさせた。「馬主さんには悪いけど馬を優先に考えた」と語ったものだが、コロナ禍で一部のレース以外は写真撮影をしていない現在、馬にとっては意外と良いことなのかもしれない。

 藤沢調教師が今週末のマイルCSに送り込むグランアレグリアに注目したい。
 (フリーライター)

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