【根岸S】“世界の西浦師”デザートストームでもうひと花「安全と笑顔」
2021年1月29日 05:30 21年は定年、勇退合わせて8人の調教師が2月末で引退する。引退調教師の足跡と競馬への思いを「最後の勝負」と題して語ってもらう。騎手時代に84年ジャパンCのカツラギエースで大金星を挙げた西浦勝一師(69)は、調教師としても多くの名馬を育てた。根岸Sにはデザートストーム(牡7)が出走。繰り上がりの運も味方に一発を狙う。
父は高知の元調教師。生まれた時から馬がそばにいた。幼少期のころ活発だった西浦師は、中学3年生からサラブレッドに乗り始め、卒業後の66年に騎手養成長期課程(現競馬学校)に入学。3年間の厳しい訓練を経て69年に騎手デビューした。
「家でじっとするのが苦手で、学校が終わるといつも友達と外で遊んだ。頭を使うよりも体を動かす方が良かったし、何事も1番になることが好き。競馬の世界は僕に合っていました」
騎手時代で絶対に外せないのはカツラギエースに騎乗した84年ジャパンCだ。「この一戦が人生を大きく変えた」。シンボリルドルフやミスターシービー、外国馬マジェスティーズプリンスを破り、レース創設初の日本馬V。これで“世界の西浦”の異名がついた。
「あの日の出来事は鮮明に覚えている。不思議と欲や雑念がなくて、周りよりもこっちが驚いたほど。大きな財産です」
96年に騎手引退、翌年に厩舎開業。オークス、秋華賞を無敗で制したカワカミプリンセス、G1・10勝ホッコータルマエなど多くの名馬を管理した。「全ての馬に感謝。騎手時代は自分が結果を出すことを考えていたが、調教師になって、オーナーや牧場の方など、関わった人たちと喜びを共有することが幸せと思うようになった」。年齢を重ねるごとに、支えてくれる周りの大切さを実感。厩舎のモットーは安全と笑顔。
「人馬ともにケガをしないこと。それと仕事は楽しく。この2つを大事にしてきた。僕の考えについてきてくれたスタッフには感謝するばかり。“ありがとう”と伝えたい」
根岸Sのデザートストームは登録段階では次点だったが、シュウジの回避で出走にこぎ着けた。昨年末のギャラクシーSでオープン初勝利。明けて7歳を迎えたが、まだまだ元気いっぱいだ。「ラストは確実に脚を使うし、流れが向くことを願ってるよ」。長いようで短かった騎手&調教師生活は残り1カ月。定年後は故郷には戻らず、現在の住まいで余生を過ごす。「これまで苦労をかけてきた奥さんと静かに暮らしたい。ゆっくりするよ」と優しい声で語った。
◆西浦 勝一(にしうら・かついち)1951年(昭26)2月7日生まれ、高知市出身の69歳。師匠である土門健司元調教師の厩舎所属で69年に騎手デビュー。通算成績は6103戦635勝。96年に引退して、翌年に厩舎開業。トレードマークはオレンジと水色の厩舎服。00年阪神3歳牝馬S(現阪神JF)をテイエムオーシャンで制し、厩舎初のG1制覇。JRA通算5414戦454勝(28日現在)。JRA重賞22勝(G1・6勝)。