心優しき女性厩務員 大変だけど幸せな愛馬との日々「一緒に食べる朝ご飯は本当においしい」(後編)

2021年6月24日 14:59

19年8月、JRAの朱鷺Sに参戦し、パドックでソーグレアを引っ張る西野さん

 昨年2月、西野さんは斎藤厩舎に馬を預託しているオーナーの紹介で、JRAの栗東・北出成人厩舎で研修する機会に恵まれた。わずか3日間ではあったが、優しい調教師や厩舎スタッフに囲まれた充実の日々。厩務員としての技術の向上につながったことはもちろんだが、多くの人とつながる機会も得た。引退馬の支援に積極的に取り組んでいる角居勝彦元調教師(当時は調教師)との出会いは、大きな刺激にもなった。

 「失礼ながら、角居さんのことは詳しく存じ上げなかったのですが、栗東で食事をさせていただく機会を得て、本当に優しく接してくださいました。実は今でも角居さんを中心とした『引退馬について考える会』にZOOMで参加させていただいているんです。資金不足や人手不足、サラブレッドの使い道の少なさなど、馬のセカンドキャリアは簡単に解決できる問題ではないと思います。私も実際にカティを引き取ってみて、自費で世話できるのは2頭が限界だと考えています。ただ、同じ女性厩務員でも、実際に愛馬を引き取った方や、愛馬が引退したら引き取りたいと言う子が出てきています。『沙織さんの活動をSNSで見て、やればやれるもんなんだと思った。やれるなら私もやりたいと思った』と言われた時はうれしかったです。私が引き取った時に比べて、関係者の理解が深まったとも感じますね」

 競馬界では“担当馬を引き取る”ことはタブーとされてきたが、勇気あるパイオニアの行動によって、潮目が変わってきたことは間違いない。

 「『できる人、やりたい人がやる』ことが大前提ですが、“担当馬を引き取る”ことが不思議に思われない世の中になってほしいです。そして、私も馬を引き取りたいと思っている人に、アドバイスやお手伝いができれば。担当馬を引き取ることは、命がけで頑張って走ってくれた愛馬への、私なりの恩返しのつもりです。それが叶わなかった子の分まで、余生をのんびり過ごしてくれることを願っています。いろいろと大変なことはありますが、休みの日にカティと一緒に食べる朝ご飯は本当においしくて。いろいろなつらいことを忘れて、最高に幸せを感じられる時間です!」

 今年の4月6日には担当馬のアンビートンレインがレース中に故障して、安楽死となった。それ以来、すべての人馬が無事にレースを終えてほしいと願う気持ちはさらに強くなった。そして、できることなら、競走馬としての役目を終えた馬も、1頭でも多く助けたい―。馬を愛する1人の女性厩務員の気持ちは、もしかすると真っすぐ過ぎたのかもしれないが、だからこそ周りの人々を動かした。その波が少しでも多くの人に広がることを願いたい。


 ◇西野 沙織(にしの・さおり)1990年(平2)12月18日生まれ、岩手県出身の30歳。かつての担当馬には昨年の水沢競馬場の金杯を制し、現在はJRA3勝クラスのシンボがいる。趣味は馬遊び、海遊び、おいしいものを食べること。ツイッター(@mochunyan)で愛馬の日常を積極的に発信している。

 ◇カティサンダ(牡8)父デュランダル 母エアヴァレナ(母の父エルコンドルパサー) 13年5月6日生まれ。生産者は北海道様似町の猿倉牧場。通算成績101戦7勝。総獲得賞金1054万8000円。18年には交流重賞のクラスターCに出走して10着だった。曾祖母は80年のオークスを制したケイキロク。馬名の由来は「オーストラリアの幻の湖」。

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