【川崎】騎手紹介⑪ 研究熱心で堅実な騎乗が光る藤江渉 宇都宮から移籍して通算700勝に到達
2021年12月13日 12:00 派手さはないが堅実な騎乗が光る。それが藤江渉騎手(39)だ。
与えられた仕事をきっちりとこなすことで、騎乗依頼も多い。「レース自体はたくさん乗せてもらっています。人気のない馬も多いので、いかに一つでも上に持っていくかというのを考えています」。クセのある馬の乗り役を任されることも少なくない。そんなときは「なるべく返し馬でコンタクトをつかんで、性格をイメージしながら、気持ちよく走らせられるようにしています」という。
騎手になった理由は「他人と違う仕事をしたかったから」。中学生時代に競走馬育成シミュレーションゲーム「ダービースタリオン」にはまり、「それも一つのきっかけ」という。自宅から自転車で30分ほどの宇都宮競馬場に実際に見に行くなど興味が高まり、茨城の進学校に在籍していた高校1年のときに地方競馬教養センターの試験に合格した。「親は反対していたのですが、勝手に自分で願書を取って試験を受けました。受かってからも反対にあったのですが、押し切って騎手の道を選びました」。強い意志で競馬の世界に飛び込んだ。
宇都宮競馬所属となり、99年10月にデビュー。04年には重賞の「もみじ特別」を制した。だが、宇都宮競馬は経営難により05年3月で廃止に。「1年くらい前からなくなるかもという話があって、〝あ、終わっちゃったな〟という感じでした。若かったのでそんなに悲壮感はなかったですけど、ただ漠然と終わっちゃったなあという感じでした」。宇都宮が終わってから星野由基男調教師に川崎の長谷川蓮太郎調教師を紹介してもらい、移籍が決まった。
30代になってからは多くのケガに見舞われた。14年5月には骨盤を骨折し、17年6月には脾臓(ひぞう)を損傷して緊急手術を受けた。同年10月には右肩脱臼と右腓骨(ひこつ)骨折。「大変だったのは骨盤を折ったとき。そのときは調子がよくて、乗る馬も集まっていたときにケガをしたのできつかったですね。脾臓のときは1日で手術が終わったので寝てればよかったのですが、骨盤のときは動けないのが1カ月続いたので精神的につらかった」と明かした。
自分の持ち味については「一生懸命乗って、馬の力を目いっぱい引き出すところ」と捉えている。調教では普段から20頭くらいに乗っている。「そこからコンタクトをつかんだ方が、イメージをつくりやすいので、なるべくレースに乗る馬は調教もしてという形にしていますね」。研究にも余念がない。「だいたいレースは毎日見ています。自分が乗らない馬でも、この馬はどういう競馬をするのかなと。その馬が自分の乗っている前にいたら、こうなるとかイメージがつくので。川崎以外も一通り目を通します」と日頃から競馬漬けの生活を送っている。
地道な努力が実を結び、今年7月26日に通算700勝を達成。「どれも乗ったレースは思い入れがある」という中で、強いて思い出の馬を挙げてもらうとヤマイチカチドキの名を挙げた。藤江とのコンビで10勝を挙げた馬で「A2下を勝ったときは思い出深いですね」と振り返った。
11月の開催からは、入場制限があるものの観客が競馬場に戻ってきた。「お客さんがいると、見られているので気が引き締まりますね。もっと入れるようになればもっと盛り上がると思いますね」と日常が戻ることを期待している。今後の目標を尋ねると「一つでも長く続けられればいいと思いますね。ケガなく」と答えた。藤江は競馬と真摯(しんし)に向き合いながら、ジョッキーという仕事を全うしていく。