素直で飽くなき向上心 北村宏がターフに帰ってくる
2022年8月26日 05:20 【競馬人生劇場・平松さとし】
3月21日の中山競馬を最後に、肩の負傷で離脱していた北村宏司騎手(42)がトレセンに戻ってきた。
大工をしていた父の幸雄氏は国体の障害馬術に出場するほどの馬乗りの腕前。その父がある日、自宅の近くに厩舎と馬場をつくり、馬を飼いだしたことから宏司少年の人生が変わった。学校へ行く前には必ず馬に乗るようになると、大会にも出場。幾度も優勝し、やがて騎手に憧れるようになった。
99年、夢をかなえて騎手デビューを果たすと37勝。JRA賞最多勝利新人騎手賞を獲得すると、翌00年1月にはダイワカーリアンを駆って東京新聞杯(G3)を勝利。デビューから1年とたたぬうちに重賞初制覇を飾ると、その年だけで4つも重賞を制覇してみせた。
その後も順調に成績を伸ばし、06年にはダンスインザムードでヴィクトリアマイル(G1)1着。自身初となるG1制覇を飾ってみせた。ダンスインザムードを管理していたのが、師匠の藤沢和雄師(引退)だった。伯楽の下、かなり厳しく育てられた。夏場の調教開始時間が早い時でも毎朝、開門時間の1時間前には厩舎へ行った。毎週末の競馬開催日でも朝はトレセンで調教に騎乗。土曜の競馬が終わった後、トレセンへ戻り、日曜は早朝から調教をつけた後、再度、競馬場へ戻ってレースに参戦したのだ。
そうまでして調教に乗っても、当時の藤沢和厩舎には岡部幸雄元騎手やペリエ騎手ら名手がそろっていたため、レースでは彼らが騎乗した。08年にはこんなことがあった。米国へ渡ったカジノドライヴの調教騎乗のためだけに米国へ行き、レース当日は日本に戻っていたのだ。
しかし、北村宏騎手から愚痴や文句を聞いたことは一切なかった。それどころか「藤沢先生のおかげで良い馬の背中をたくさん知れたし、いろいろな経験ができました」と真顔で言う素直な心の持ち主が、北村宏司なのだ。
実戦復帰は9月の中山開催だという。以前にも増した活躍を期待したい。 (フリーライター)