【書く書くしかじか】馬ふん堆肥が学校の講義に 引退馬支援に新たな道

2023年3月8日 10:10

馬ふん堆肥の状態を確認する杉原さん(左)と平田さん(右)

 ▼日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社の田井秀一(30)が担当する。昨年から馬ふん堆肥の講義を導入した農業学校「アグリイノベーション大学校」を取材。異業種との連携が進む引退馬支援について考えた。

 当欄では度々、引退馬支援の活動を紹介してきた。しかし、競走馬のセカンドキャリアのほとんどは寄付やボランティアなどの善意を土台に成り立っている。この現状を打開するには、乗馬やホースセラピー以外に、馬ができる“仕事”を増やすことが不可欠。未来を見据えた異業種との連携の輪は徐々に広がりを見せている。

 今回、注目するのは馬ふん。競馬ファンの皆さんもパドックでできたてほやほや、白い湯気に煙る馬ふんは何度も見たことがあるのでは?

 その馬ふんに熱視線を向けるのは農業界。たとえば、社会人向け農業学校「アグリイノベーション大学校」では、昨年12月から新たに講義の題材に馬ふん堆肥を取り上げている。発案したのはオーストラリアで乗馬クラブに勤務した経験がある杉原一成さん(28)。「鶏ふんと比較すると、馬ふんには植物性の有機物が多く含まれています。その有機物が土壌の微生物を活性化させるので、土壌改良に大きな効用があります」とそのメリットを解説する。厳しいドーピング基準下にあるサラブレッドの馬ふんは抗生物質が極端に少ない利点もある。

 千葉県白井市にある同校の千葉農場では、市内の乗馬クラブから引き取った馬ふんを発酵して堆肥を作成。現状、馬ふん堆肥はマイナーであることは否めないが、同校を運営するマイファームの事務員・平田尚晃さん(30)は「農林水産省が策定した“みどりの食料システム戦略”では、2050年までに耕地面積に占める有機農業(化学肥料や農薬を用いない)の取組面積の割合を25%に拡大することを目指しています。土をふかふかにする馬ふん堆肥の効能をしっかり伝えていくことができれば、広がっていく余地は十分にあると思っています」と見通しを語る。いずれプラットフォーム化が実現すれば、乗馬クラブや牧場の馬ふん処理費の軽減につながり、ウィンウィンの関係が構築できる。

 2000人以上の卒業生を輩出している農業学校で馬ふん堆肥が取り上げられ、なおかつ同世代の平田さんや杉原さんがかじ取りをしていることにうれしさと心強さを感じた。今後も引退馬の支援につながる活動をあらゆる角度から取り上げていくつもり。馬が生きる道は、走ることだけではないはずだから。

 ◇田井 秀一(たい・しゅういち)1993年(平5)1月2日生まれ、大阪府出身の30歳。阪大法学部卒。19年春から中央競馬担当。道営で調教厩務員を務めた経験を持つ。引退馬協会会員。

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