【桜花賞】ライトクオンタム95点 ディープインパクト産駒最後の桜はしなやかさ群抜く
2023年4月4日 05:30 1強ムードの桜戦線だが、ボディーは2強だ。鈴木康弘元調教師(78)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第83回桜花賞(9日、阪神)では昨年の2歳女王リバティアイランドと共にディープインパクトのラストクロップ(最終世代の産駒)ライトクオンタムを1位指名した。達眼が捉えたのは生前の父を思い起こさせるしなやかさ。遅咲きの八重桜のように素質のつぼみが花開いた。
桜のシーズンも終盤にさしかかっています。関東甲信越のソメイヨシノはピークを過ぎ、葉桜に変わってきました。ヒロイン交代を告げるようにつぼみを開いているのが八重桜。別名「牡丹(ぼたん)桜」とも呼ばれるこの遅咲きの桜は牡丹のような大ぶりの花弁を5月初旬、場所によっては樫が開花する5月半ばまで咲き続ける。
競馬の桜戦線にも同様の変化が生じています。2歳時からソメイヨシノのように咲き誇っていた女王リバティアイランドの1強時代から、ライトクオンタムという遅咲きの八重桜を含めた2強時代へ。武豊、幸四郎兄弟が育てるこの青鹿毛はリバティアイランドに唯一、太刀打ちできる馬体を備えています。
ディープインパクトが国内に残したわずか6頭のラストクロップ(最終世代)の一頭。WBC日本代表の栗山英樹監督も最強馬の覇気をもらうために毎年合いに行ったという偉大な父の特徴がそっくり受け継がれている。首差しが奇麗に抜けたスラリとしたつくり。この無駄のない体形がバランスのいい走りを可能にします。リバティアイランドのように大きくないが、柔らかくて弾力性に富んだ筋肉をつけている。首から肩にかけての、とてもしなやかなつくりも父譲り。機能性に富んだ骨格と柔軟な筋肉はオークスの2400メートルにも対応できる。
キ甲(首と背中の間の膨らみ)はまだ抜けていません。成長する余地をたっぷり残している。今の時季の八重桜同様、せいぜい七分咲きでしょう。それでも、しなやかさは群を抜いています。ディープインパクトは自身の一番の長所を最後の産駒に引き継いだようです。420キロそこそこの馬体でも腹周りはふっくら。シンザン記念から3カ月の休養効果が表れています。両前のつなぎは少し硬めに写りますが、腱がしっかり見えているので問題ない。
立ち姿には名牝の相が表れています。素直に立てた耳、自然に流した尾、穏やかなハミ受け。それでいて、瞳には静かな闘志を宿している。
八重桜の花言葉は「しなやかさ」。2歳女王に代わって桜のヒロインの座を射止めるとすれば…。ディープインパクト譲りのしなやかさを備えたラストクロップかもしれません。(NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の78歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。