【書く書くしかじか】ホッカイドウ競馬五十嵐冬樹師が次女に夢託す

2023年4月12日 10:10

<競馬学校騎手課程第42期生入学式>父・五十嵐冬樹師(左)と記念撮影に納まる五十嵐ひな(撮影・郡司 修)

 ▼日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く「書く書くしかじか」。今週は東京本社の高木翔平(32)が担当する。4日にJRA競馬学校に入学した五十嵐ひなさん(15)は、道営の星・コスモバルクの主戦を務めた元騎手の五十嵐冬樹調教師(47)の次女。自分の背中を追い始めた愛娘の門出を、ホッカイドウ競馬の名手は温かいまなざしで見つめていた。

 まだ桜が残る4日、千葉県白井市のJRA競馬学校で「騎手課程42期生」の入学式が行われた。いよいよ始まるデビューまでの厳しい3年間。7人の新入生それぞれが緊張した面持ちで式に臨んでいた。その会場で穏やかな笑みを浮かべていたのが、ホッカイドウ競馬のレジェンド・五十嵐冬樹さん。次女・ひなさんの門出に「娘に自分の夢も託して。頑張ってほしいなと思いながら見ていましたね」と目を細めた。

 地方、JRA、海外で通算2537勝を挙げた五十嵐師は、ひなさんにとっても最も身近なヒーロー。競馬の道を目指すのは自然な流れだった。「(ひなさんは)小学校低学年の頃から毎日馬に乗っていたね。危ないとか、甘くないよと伝えていたが、中学2、3年の時に“これは本気かな”と思った」。30年間やり遂げた騎手という仕事の酸いも甘いも知るからこそ一度は反対。それでも、娘のまなざしは真剣だった。

 道営所属・コスモバルクと中央、海外へと殴り込んだ挑戦の晩年、ひなさんがこの世に生を受けた。五十嵐師がムチを置いたのは、くしくもひなさんが競馬学校入学を決めた昨年。勝負の世界で戦う姿を騎手の先輩として、父として示し続けてきた。五十嵐師は「ジョッキーベイビーズや、ポニーレースで馬に気合を入れている姿や声の出し方はどこか自分に似ているなと思う時がある。レースや攻め馬も見に来ていたので、刷り込まれているのかもね」とどこかうれしそうだった。

 ひなさんが会見で勝ちたい一戦に挙げたのが「皐月賞」。父が04年に1番人気コスモバルクと挑み、惜しくもダイワメジャーの2着に泣いたレースだ。「ディスっているよね(笑い)。フェアプレー賞も獲りたいと言っていたよ(コスモバルクはその後に斜行癖に悩まされる)」と五十嵐師。報道陣の笑いを誘ったのは照れ隠しにも見えた。「ジョッキーベイビーズの時とか、負けず嫌いだなと感じることはよくあった。そこ(の性格)は僕よりきついかもしれない(笑い)。でも、それは勝負師として大切なことだから」とエールを送った。

 昨年は同じ女性騎手で、父が元騎手(康成さん)の今村聖奈が最優秀新人賞を獲得。幼い頃から馬が近くにいた経歴がひなさんとかぶる。「ずーっとやってきて自然と馬を好きになった。最近は女性騎手が注目されているが、とにかく技術を求めて上を目指してほしいです」。“自分の夢も託して”。3年後、競馬学校で笑顔のひなさん、五十嵐師と再会できることを祈っている。

 ◇五十嵐 冬樹(いがらし・ふゆき)1975年(昭50)9月30日生まれ、北海道深川市出身の47歳。93年10月4日、札幌競馬場でデビュー(2着)。同20日に初勝利。通算1万6407戦2537勝。うち中央は1013戦58勝。ホッカイドウ競馬リーディングを11度獲得。22年11月30日付で騎手を引退、12月1日付で調教師免許が交付された。1メートル55、48キロ。血液型A。

 ◇高木 翔平(たかき・しょうへい)1990年(平2)4月29日生まれ、広島県出身の32歳。15年入社で競馬班一筋。

特集

2023年4月12日のニュース